薬屋のひとりごと 33話 ネタバレ
ビッグガンガンにて連載中の漫画「薬屋のひとりごと」の全話・全巻ネタバレまとめ。「薬屋のひとりごと」第1話〜最新話までのネタバレをまとめているので、ぜひチェックしてください!ちなみに、薬屋のひとりごとの漫画は、U-NEXTというサービスを使えば600円お得に読むことができます。無料会員登録で600円分のポイントがもらえるのでこれを活用すればOK!さらに31日間の無料期間中は、アニメやドラマ、映画なども無料視聴できますよ。※薬屋のひとりごとは618円〜660円で配信されています下記の青文字をタッチすると、その話のネタバレをチェックできます。以下、薬屋のひとりごと第1話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第1話ネタバレここから〜(露店の串焼きが食べたいなぁ)いきなりひとりごとでタイトル回収かと思いきや、声に出てないのでひとりごとではありません。後宮の下女として生活する主人公と思しき17歳の少女、何と薬草採取中に誘拐に遭い、はや三か月、といったところから物語は始まります。後宮とは原則男子禁制の女の園、薬師として育ってきた彼女はできることなら関わりたくなかった場所のようです。ですが何の因果かそんな場所で下女として仕事をしている猫猫、字は読めるものの、自身の容姿への自己評価はソバカス顔の肉なし体型。見た目重視の後宮では役に立ちそうもないので、ここから出られるようになるまでおとなしく働くことにしているようです。その日、食堂にて同僚の後宮で生まれる帝の子供が連続死している、呪いのせいか?と、現状は、『東宮』という生後三か月の男の子の宮(跡継ぎの事)と『公主』という女の子で生後六か月のの二人の宮が存命とのこと。呪いなんてくだらないと一蹴しつつも、好奇心が旺盛な猫猫は皇位争いや毒殺、病気や血筋などを疑います。そして小蘭にほかの子たちがどうゆう風に死んだのかを訪ねました。小蘭自身も詳しくはないらしく、だんだん弱って言った。としかわかりませんでした。ですが今回も似たような様子。また、母親も体調不良を訴えている…という話を聞くことができました。体調不良の、頭痛、腹痛、吐き気、三つに引っかかりを覚えた猫猫は、(たかが噂話に何を真剣になってるんだ。こんなのはただの憶測にすぎない・・・すぎないが、ちぃとばかし行ってみるか)好奇心の強い猫猫は後宮の中央へと足を運び、そこで、人混みを発見ました。その中心から言い争う声が聞こえてきます。梨花妃は、男の子である我がの子を呪い殺す気なのだろう、とそれに対し玉葉妃は、そんなわけがないと貴女も分かっているはずだ。我が子も同じように苦しんでいるのだから、と反論さらにそれに対して猫猫の反応はというと…と周囲の人々とともに引き気味。渦中の二人のを仲裁しようとしている人物を見て、医官だろうかと当たりをつけますが、そのあとの心中が辛辣です。それだけ二人のそばにいて病状について本当に気づいてないのだろうかということのようです。幼児の死亡、頭痛、腹痛、吐き気、何より梨花妃のげっそりとした様子を見て猫猫はやはり呪いでもなんでもないことを確信します。ほんの少しの正義感からか、どうにかして二人に伝えたいと考えました。それも、伝えたのが自分だとわからないように。考え込み、もう周りの人など見えないほどでした。結局、簡単な手紙を石楠花に結い付け、2人の妃の元へこっそり置いておきました。それから一月もしない頃、東宮が亡くなったと聞き、と、割り切ったように思うものの、一方で玉葉妃の娘、公主も時間の問題だと物憂げな表情で考えているのでした。そんな中、下女何人かが中央の宮官長室へ呼び出しがかかり、猫猫もその一人でした。おそらく人手が足りないのだろうと考え、宮官長の部屋へと向かいある人物と出会います。猫猫の最初の印象としては偉そうな女性でしたが、肩幅が男性のそれであることに気づきました。周りの下女たちはその容姿端麗な男性に釘付けです。男性はおもむろに筆を取り、猫猫は硬直しました。それだけを書いた紙を見せつけるように掲げた後、これで解散だ、戻って良いと言います。下女たちは頭に?マークを浮かべながら退出していきますが、猫猫は何か目を付けられるヘマをしたのかと焦ってしまいました。先日の妃への手紙が脳裏をよぎりかけたところで男性の真意に気づきます。まんまと炙り出されてしまったようです。道すがら猫猫が字を読めないことになっていることを不思議だと壬氏が話します。ですが彼女は、卑賤の生まれなので何かの間違いでは?とシラを切ります。世の中、無知なふりをしていた方が立ち回りやすいもの。そもそもなぜ手紙のことがバレているのか、気を付けていたが誰かに目撃されていたか、それでも細やかな情報しか出ていないはずなのに・・・と猫猫が悶々としている間にも歩みは止まらず、目的の部屋までたどり着きました。壬氏がノックをして入った先では玉葉妃が娘を抱いて待っていました。猫猫の顔を見るなり一礼、玉葉妃は当然のごとく手紙の主を探していたのです。それは下女の仕事着を割いたものに書かれており、猫猫のスカートには繕った跡が残っています。それを指摘された結果、猫猫は手紙を送ったこと、白粉による毒で死んだ人を知っていたこと、元が薬屋だったことを白状しました。完全に誤魔化しの効かないあきらめの境地に達した猫猫は呼び出された要件を玉葉妃にたずねました。玉葉妃は穏やかさと快活さが入り混じったような笑顔でこう答えます。これは一瞬にして出世した元薬屋、現下女、これから侍女の物語になるのでした。〜薬屋のひとりごと第1話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第1話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第2話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第2話ネタバレここから〜玉葉妃の侍女となり出世した猫猫は、寝台付きの部屋を与えられ、1人もの思いのふけっていました。玉葉妃のいる翡翠宮の侍女は4人おり、猫猫が仕事をしようとしても、と部屋に戻されてしまいます。翡翠宮の侍女たちはとても働き者で、通常は専門の下女たちが来る部屋の掃除も、すべて侍女たちで終わらせていました。もともと少数精鋭だったところに新参者が来ても、いい顔をされないのは分かっていた猫猫でしたが、侍女が猫猫に見せた表情に引っかかっていました。猫猫は考えを巡らせます。猫猫の唯一の仕事は、玉葉妃の食事を毒見することでした。毎度、妃のために作られる食事は、部屋に運ばれてくるまでに何人かの手に渡り、寵妃としては、その過程で毒を入れられる可能性も考えなくてはなりませんでした。毒見役の一人は、軽く済んだのですが、もう一人は神経をやられて手足が動かなくなってしまったそうです。東宮の件で、みんな神経質になっており、そこに毒見役として送られてきた猫猫は使い捨ての駒として見られて当然だったのです。そんな様子を、壬氏は微笑みながら見守ります。壬氏としては上級妃である玉葉妃の侍女が少なくて、矜持が保てないと考えていました。壬氏にしてみれば猫猫はとても都合のいい存在で、猫猫がさらに都合よく動くよう「色目」をつかっておこうと微笑みかけたのでした。しかし、猫猫には不気味にしか映らないのでした。実験と称し、様々な毒を試してきた猫猫の腕は傷だらけでした。嬉しそうに毒を試すその姿は狂科学者そのものです。少しずつ毒に慣らした体は本来なら毒見にはむかないけれど、幸運な役職に就いたものだと笑みを浮かべるのでした。そして、その様子を玉葉妃、侍女、壬氏は不気味そうに見守るのでした。猫猫は、侍女頭の紅娘(ホンニァン)に、「皿は銀製のものに変えたほうがいいと思います」と報告します。紅娘はため息をつきながら、「本当に壬氏様の言ったとおりね。今回はわざと銀食器は使わなかったのよ」と猫猫に話します。「その毒にも薬にもなる知識と、字が書けることを言っていれば、お給金はもっともらえたはずだけど」と続ける紅娘に、「かどわかされて(誘拐されて)後宮へ連れてこられたのに、今も人さらいに給金の一部が送られているなんて、はらわたが煮えくり返ります」と話す猫猫。紅娘は、「給金を減らしてでも、そいつらに酒代を与えたくないのね?」といって、水差しを床に落として見せます。呆然とする猫猫に、紅娘は続けます。「結構高いのよこれ。これじゃ実家へ請求するくらいじゃないとだめね」と目配せをするのです。「申し訳ありません。仕送り分から差し引いてください。足りなければ手持ちからも」猫猫は続けます。さらに紅娘は、毒見役の追加給金の明細、つまり危険手当を猫猫に手渡します。それは給料とほぼ同額で、人さらいたちに金が入らない分、猫猫は得をすることになるのです。と猫猫は感心して、その場を去ります。侍女たちは実は、猫猫の腕を見て、「親に虐待され後宮に売り飛ばされ、果ては毒見役なんてかわいそう」と猫猫に同情していたのでした。猫猫は毒見役としての仕事を続けていきます。しかし、呼ばれるのは二回の食事とお茶会、そして数日に一度訪れる帝の滋養強壮料理を食べるくらいでした。しかし、以前は薬屋として人が目を背けるような傷を作り、新しい薬を開発してきたというのに、ここへ来てからは甘茶くらいしか作れていないことに不満を抱く猫猫なのでした。以前は仲間たちと同室で、材料はあっても道具もなく、薬を調合したりすることができなかったのです。せっかく個室になったのだから、実験をしたいと、うずうずします。そこへ壬氏が訪れます。と包子(パオズ)という肉まんを差し出します。匂いを嗅いだだけで、と答える猫猫。「食べなくてもわかるのか」と驚く壬氏。「害はないので、持ち帰りおいしく頂いてください。」という猫猫に、「もらった相手を考えると素直に食べられないだろう」と複雑な表情を見せる壬氏。「今夜あたりお相手から訪問があるかも知れませんね」と毒づく猫猫でした。そして壬氏は猫猫にといいます。一体何事かと驚く猫猫でしたが、作るということは調薬ができる!と目をキラキラさせます。それを壬氏が使うのかどうかは知らないが、と考えたうえで、と答えるのでした。〜薬屋のひとりごと第2話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第2話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第3話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第3話ネタバレここから〜日も暮れ、廊下を歩く壬氏に、中級妃が声をかけます。「壬氏さま、これからどちらへ?」「宮廷へ戻るところですが、何か用でも?」と答える壬氏。良ければ部屋でお茶でも、と誘う中級妃を笑顔でかわし、壬氏はうんざりとした様子で、ため息をつきます。殿中では文官に声をかけられ、武官には催淫剤入りのおやつを渡され、下級妃2人・中級妃にまで誘われていたのでした。妃の位は家柄に加えて、美しさ・賢さを基準に選ばれるものでした。国母にふさわしい教養に加えて、貞操観念が求められる「賢さ」は一番難しいところです。さきほどの中級妃のように、帝の御通りがないからと他の男を寝所に引き入れようとするのは、もってのほかです。壬氏はその男女問わず虜にしてしまう美貌を買われ、女官を選定するために後宮に置かれていたのでした。と壬氏は思いますが、この主というのは、帝のことを指しています。壬氏は皇帝に、これまで二人の妃を推薦しました。一人は思慮深く聡い玉葉妃、もう一人は感情的な面もありながらも、誰よりも上に立つ気質を持つ梨花妃でした。二人とも帝に対して、邪な感情が見当たらないどころか、梨花妃に至っては心酔の域に達していて、適任といえるところでした。痩せ細った梨花妃のもとに帝が通ったのは、東宮(梨花妃の息子で、王位継承者)が亡くなった時が最後でした。自分と国に都合の良い妃をそろえさえて、子を産ませ、その能力がなくなれば切り捨てるのが帝なのです。そして、必要のなくなった妃は、通常実家に戻されるか、官に下賜される(身分の高い人が身分の低い人に何かを与えること)です。と壬氏は思いを巡らせます。「なんにせよ、計画通りにことを運べば問題ない。それにはあの薬師の協力がいくらか占めているかもしれないが…」そこで壬氏は猫猫のことを思い浮かべ、思った以上に使える存在だ、とにやりとします。モテモテの壬氏にとって、欲情してこないばかりか、まるで毛虫を見るかのような目をむける猫猫は、珍しく面白い存在でした。と嬉しそうに思い浮かべます。そして、「今晩あたり(催淫剤いりのおやつくれた武官から)訪問があるかも知れませんね」という猫猫の言葉を思い浮かべ、念入りに自室に鍵をかけるのでした。一方、壬氏から媚薬の調合を頼まれた猫猫は、籠をしょって医務室へとやってきました。そこにいたのは、白粉事件を見抜けなかったヤブ医者と、壬氏の付き人をしているその精悍な様子から「…武官?」と思う猫猫でしたが、後宮にいるのだから宦官に違いないなと思い直します。二人は初めてのあいさつを交わしました。と、高順に薬剤室に案内しようとすると、ヤブ医者は面白くなさそうな顔をします。ジェラシー丸出しの様子で、猫猫をじろじろと見るのでした。高順がそう告げて薬剤室の扉を開けると、そこには壁一面の引き出しにしまわれた薬剤が…!猫猫は顔を輝かせ、嬉しさのあまり小躍りをします。と部屋へやってきた壬氏にツッコミを入れられるのでした。猫猫は材料を紙に包み、準備を進めていきます。届かない引き出しのものを高順にとってもらっている様子を、壬氏はにこにこと見つめています。と猫猫は心の中で毒づくのでした。猫猫が高順に頼んで取ってもらったものが最後の材料だったのですが、引き出しの中にはもう少ししか入っていませんでした。「これでお望みのものが…」と言いかける高順に猫猫はこれでは足りないと言います。「形は杏仁に似ているが、匂いが独特だな。これはなんというのだ?」と尋ねる壬氏。「カカオというものです」と猫猫は答えました。「足りないのなら、用意すればいいだけだ。交易品を探せば見つかるだろう」と壬氏は笑顔で言うのでした。猫猫が用意した媚薬の材料は、でした。猫猫がまだ幼いころ、花街の妓女がお客様にもらったと言って猫猫に食べさせたのでした。カカオを食べた猫猫はぽ~っと酔っ払ったようになり、ちょっとした騒ぎになったのでした。のちに、交易商が媚薬として売り出しているものであることを知ったのです。出来上がったものはドライフルーツにチョコレートをかけて固めたようなものでした。あとは冷えるのを待つだけ…のところで、猫猫はあまった液状のチョコレートをパンに浸して、置いておきました。洗い物を済ませ、ついでに薬草を摘んで帰った猫猫が戻ると、青ざめた顔の高順に、頭を抱えた紅娘(侍女頭)の姿が…。何事かと慌てて部屋へはいると、3人の侍女たちが顔を上気させ、衣服も乱れた様子で横たわっていたのでした。3人の様子を見て、大きくため息をついた壬氏は「とりあえず効力は分かった」と言います。紅娘は怒りながらと猫猫に詰め寄ります。猫猫は3人の侍女のスカートをめくり確認するとと答え、紅娘にはたかれるのでした…。3人の侍女は猫猫が作ったチョコレートを浸したパンを、おやつと間違って食べてしまっていたのでした。猫猫はこれをおやつとして食べようと思っていたと話します。酒や刺激物になれているとそれほど効かないと言うのです。猫猫は出来上がった媚薬を壬氏に渡します。効き目が強いので、一粒ずつを目安に食べること、使用する際は意中の相手と二人きりの時に食べること、と注意を添えました。みんなが騒動を見届けて去ると、猫猫は例のパンを片付けをしようとします。そこへ一度席を離れた壬氏がすっと背後から近づいてきます。と言って、猫猫のうなじにそっと口づけました。驚き目をむく猫猫。手元のお皿を見ると、パンがひとつ無くなっていたのでした。去っていく壬氏の背中に、と猫猫はつぶやきます。〜薬屋のひとりごと第3話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第3話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第4話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第4話ネタバレここから〜月明かりの夜。宮中を歩く女官がふと外壁を見上げると、壁の上に女の姿が浮かび上がります。女官は叫び声をあげ、新たな事件の幕開けです。ここ1か月、夜な夜な城壁で踊る女の霊が現れると宮中で噂になっていると、猫猫は侍女から聞かされます。後宮は城壁と堀に囲まれていて、四方の門以外からは出入りができません。脱走も侵入も不可能となっています。塀の向こうの深い堀には、かつて後宮から出ようとした妃が沈んでいるという怪談話まであるのです。と猫猫は思います。猫猫は医務室を訪れ、とヤブ医者に声を掛けます。以前と違って、ヤブ医者は友好的な態度です。猫猫が薬を作れると分かったからか、歓迎されるようになったようです。ヤブ医者が猫猫にお茶とお煎餅を用意してくれたのですが、そこで声をかけてきた人物がいました。壬氏です。悲しいことに、猫猫のおやつは、そのまま壬氏のもとへと行ってしまいました。「お仕事ご苦労」「それほどではございません」壬氏はキラキラとした笑顔で猫猫に挨拶をします。宦官ならば内侍省にいるべきだろうに、どこの部屋にも所属しないで、後宮全てを監視しているように見える壬氏。猫猫は壬氏の役職は何なんだろうと不思議に思います。「宮官長よりも上の立場だろうか、帝の後見人の可能性もあるがそれにしては若いし…」そこで猫猫はひらめきます。壬氏はヤブ医者に用事を言いつけて別室にやると、「幽霊騒ぎは知っているか?」と猫猫に尋ねます。噂程度には、と答える猫猫に「じゃあ夢遊病というものは?」と重ねて尋ねました。夢遊病に覚えのあった猫猫の表情を壬氏は目ざとく読み取り、美しい顔を近づけて「何なら治るんだ」と迫ります。と近づかれるのが心底嫌そうな猫猫をと、降参させるのでした。夜になると、猫猫は高順をお供に、例の幽霊を見に行きます。城壁の上で月を背に舞い踊る一人の妃―芙蓉妃がそこにいました。と高順は猫猫に説明します。ヤブ医者の話によると、芙蓉妃はここのところ元気がなかったようです。お目通りの時に舞踏に失敗して以来、部屋に籠り気味だったそうです。小さな属国の第三公主の身分だが、入内から二年お手つきもないとのことでした。とヤブ医者は言いました。その言葉を聞いて猫猫は「なるほど」とうなずくのでした。夢遊病とは、寝ているのに起きているような動きをする病気です。原因は心の軋轢であり、薬では治せません。花街にいたころ、猫猫は妓女の夢遊病患者を診たことがある、と猫猫は壬氏と玉葉妃に話をします。その妓女は、身請け話が持ち上がったころ、毎晩とりつかれたように妓楼を散策し始めます。止めようとした楼主は、爪で肉をえぐられました。翌日。妓楼のものはみんな不審な行動に詰め寄ったのですが、彼女は昨夜のことを一切覚えていませんでした。と、壬氏が猫猫に尋ねると「何もありません。身請けが破談になった後、徘徊はなくなりましたので」と彼女は答えます。「身請けが嫌だったのかしら?」と玉葉妃がいうと、おそらくは、と猫猫が続けます。「相手は大店ですが、妻子どころか孫までいる身分でした。結局、その妓女には新しい身請け話もなく年季が明け、この話は終わりです」「本当に?」とまた美しい顔で迫る壬氏。この手でたいていの女性は秘密を吐いてしまったのでしょう。猫猫はまた毛虫を見るような目でと言います。立ち去る猫猫の背中を、玉葉妃は目線で追いかけます。そうして、夢遊病の芙蓉妃は、武官に下賜されるために宮中を去っていきました。その表情は晴れ晴れとしていて、乙女の喜びをたたえたものでした。遠くから芙蓉妃の旅立ちを見送る、猫猫と玉葉妃。にっこりと笑みを浮かべ、猫猫に玉葉妃は言います。猫猫の推測はこうです。芙蓉妃を下賜されることになっている「幼なじみ」は、一武官にすぎません。とても姫に求婚できる立場にはないのです。ゆえに武勲を立てて、いつか姫を迎えに行くつもりでした。しかし、姫は後宮に入ることになります。武官を思う姫は、得意の舞踏をわざと失敗し、皇帝の気を引かない様にしたのです。目論見の通り、夜伽は行われず、芙蓉妃の身はきれいなままでした。武官が武勲を立て芙蓉妃の下賜が決まると、姫は怪しげな徘徊をするようになります。間違ってもお手つきにならないようにです。好色な皇帝が、武官がそれほどまでに望む姫に興味を持たないとは言い切れなかったからです。猫猫の話を聞いて、と玉葉妃はつぶやきます。寵愛を受けていると言われる玉葉妃のもとを帝が訪れるのは、数日に一度です。来ない日は公務が忙しい場合だけではありません。多くの子を残すことは帝の義務でもあり、他の妃のもとを訪れているのです。と猫猫は答えました。外壁で踊る芙蓉妃の姿は美しかった、と猫猫は思い浮かべます。恋が女を美しくするのなら、それはいったいどんな薬になるだろう…と猫猫は思うのでした。〜薬屋のひとりごと第4話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第4話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第5話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第5話ネタバレここから〜猫猫が、翡翠宮を訪れた皇帝の食事の毒見を終えた時のこと。皇帝は猫猫にと、声を掛け、と皇帝は言うのです。見てくれ、というのはつまり直せと同義です。首と胴はまだ仲良くしていたい、と思う猫猫は「御意」と返事をしました。ほかの妃の前でいう話じゃないのに、つくづく帝は帝という生き物だ、と猫猫は思うのでした。かくして、しばらく猫猫は水晶宮(梨花妃のいる宮)に派遣されることになります。先日の一件以来、例の白粉は使用不可となりました。卸した業者にも厳しい罰が課せられます。今後の入手は不可能でしょう。これ以上毒が入らないのなら、体に残った毒を輩出するのが先決、と猫猫は考えました。帝の勅令で権限が認められ、宮廷料理人にあれこれ指示を出すことができました。繊維質の豊富な粥に、利尿作用のあるお茶、消化の良い果実などを用いて、毒を輩出する食事を作らせたのです。しかし、水晶宮の侍女たちは猫猫のことが気に入りません。猫猫が持ってきたせっかくの食事を、床に投げ捨てたのです。そして、早く片付けなさいよ、とあざ笑うのでした。心底うんざりする猫猫。侍女は、いつもの食事を梨花妃に運んできます。確かに栄養は満点なのですが、胃腸の衰えた病人には重すぎるメニューです。侍女が梨花妃に食べさせようとしますが、梨花妃は咳きこんでしまいます。と猫猫は部屋を追い出されてしまいました。追い出された扉の向こうで、猫猫は深いため息をつきます。このままでは梨花妃は衰弱死してしまうでしょう。毒の排出が間に合っていないのか、それとも生きる気力がないのか…。病人に近づくことすらできないのです。首と胴がさよならするまであと何日だろう、と猫猫は憂鬱な表情で指を折り数えます。そこに現れたのは壬氏でした。宮廷のアイドルともいえる壬氏が猫猫に声をかけているのを見て、水晶宮の侍女たちは、嫉妬と怒りに満ちた様子で猫猫を睨みます。知ってか知らずか猫猫に壁ドンしながら、「とりあえず中に入ろうか」と流し目でささやく壬氏。猫猫の反応を面白がっています。嫉妬に燃える侍女たちのほうを向き直ると、と王子様のような笑顔で言うのでした。そのアイドルスマイルに侍女たちはあっさり、懐柔されてしまい、猫猫と壬氏を梨花妃の寝室に通します。横たわる梨花妃の顔に猫猫が触れると、さらりとした手触りを感じました。猫猫が触れた指を見ると、そこには白粉が…。恐ろしい形相で侍女を睨みつける猫猫。と侍女に尋ねます。と威張って言う侍女に、猫猫は突然張り手を食らわせます。騒然とする周囲。と他の侍女に詰め寄られるとと、先ほどの侍女の髪をつかみ、鏡台へと連れていきます。「痛い痛い」と泣き叫ぶ侍女にも構わず、鏡台の引き出しを猫猫は開けました。そして例の白粉を発見すると、忌々しそうに睨みつけ、すべての白粉を侍女の頭にかぶせたのです。猫猫は冷たい表情で冷酷に言い放ちます。梨花さまも喜ぶと思って…と泣きながら口ごもる侍女に、と恐ろしい形相で詰め寄る猫猫。あまりの出来事に、泣きながら震える侍女へそう言うと、他の侍女たちに床の掃除をいいつけました。侍女たちが慌ただしく出ていったところで、ふう、とため息をつく猫猫。そこには感心したようにつぶやく壬氏の姿が。すべてのいきさつを見られていたことに青ざめる猫猫でした。そこから猫猫は、梨花妃の看病に当たります。重湯を作りましたが、匙から吸う気配がないので無理やり口に流し込み、嚥下させます。そしてこれを根気強く繰り返します。病気は食事をとらねば治らないからです。ことあるごとにお茶を飲ませ、小用の回数を増やして体の毒を排出させます。そうして毒を排出する生活が2か月ほど続くと、梨花妃は散歩ができるまでに回復しました。と猫猫は思っていました。梨花妃は自尊心はあるが高慢ではなく、妃にふさわしい人格の持ち主だったのです。ある日、梨花妃はと猫猫に話します。と答える猫猫に、梨花妃は帝の寵愛がついえてしまったのに…と梨花妃は目を伏せます。私が翡翠宮へ戻れば帝も梨花さまの元に来られると思いますが」と猫猫が言うと、美しい髪の玉葉妃には勝てない、と梨花妃は悲しそうにします。と猫猫は告げ、梨花妃の豊満な胸元を指し、妓女直伝の秘術を授けます。こうして、猫猫の2か月の水晶宮への出張は終わりました。その後、翡翠宮では帝の御通りが著しく減り、という玉葉妃に猫猫は目を泳がせるのでした。〜薬屋のひとりごと第5話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第5話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第6話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第6話ネタバレここから〜翡翠宮へ何やら荷物が運ばれてきました。侍女たちはいそいそと荷物を確認しています。と猫猫が尋ねると、侍女が嬉しそうに言います。侍女が持っていたのはあでやかな衣装でした。園遊会が行われることになり、侍女たちはその準備に追われていたのです。園遊会とは、年に2回宮廷の庭園にお偉方が集い、様々な出し物が行われたり、食事がふるまわれたりする会のことです。后(正室)のいない帝の場合は、その席に上級妃である4人-が呼ばれるのです。「園遊会では私たちは何を?」「それがなにもしないのよね」猫猫が聞くと、侍女が答えます。招かれる立場なので、ただ皇帝につき従っていればいいとのことでした。と侍女は戦いに闘志を燃やしています。官にも笑顔を振りまかなければならないと聞き、気が乗らない猫猫ですが、新人が辞するわけにもいかないし、食事が出るので毒見役は必要不可欠かと諦めます。猫猫は生姜と蜜柑の飴を作ります。体を温める作用のある食材を使って、冬の園遊会を乗り切るためです。そして肌着にポケットを作り、カイロ(温めた石)を入れられるようにしたのです。これが紅娘(侍女頭)の目に留まり、猫猫は侍女たち全員分だけでなく、壬氏や高順の分をも作ることになります。園遊会当日。翡翠宮では玉葉妃が衣装に着替えていました。結わえられた赤い髪に二つの花簪、銀の笄(こうがい:髪飾りのこと)には絹の房飾りと翡翠の玉飾り、紅を基調とした衣装、大袖には金糸の刺繍がほどこされ、非常にあでやかな姿です。と猫猫も玉葉妃の美しさに見とれます。侍女たちは口々にほめたたえています。玉葉妃はそういうと、箱から何かを取り出します。侍女たち4人に髪飾りや耳飾りといった宝飾品を、玉葉妃自ら飾ってやります。玉葉妃は、猫猫にも豪華な首飾りをかけ、と声を掛けます。おずおずと受け取る猫猫。その猫猫を侍女たちがいきなり羽交い絞めにします。そこで猫猫のある秘密が明らかになるのです。壬氏は各后の挨拶に回っていました。きりっとしながら壬氏は里樹妃に言います。壬氏の美しさにほほを染めながら答える里樹妃。年端もいかない少女のように見えます。壬氏は玉葉妃の元にもあいさつに訪れます。そして着飾った玉葉妃に賛辞の言葉を送ります。壬氏の目的はむしろ猫猫です。嬉しそうに猫猫に近づいてきます。振り返った猫猫は、いつもと異なり、可憐な美少女となっていました。驚く壬氏に猫猫は答えます。猫猫の秘密とは、素顔が美少女であるということだったのです。そんなことに意味はあるのか、という壬氏に猫猫は言います。花街には、女に飢えた輩もいて、男に襲われてしまう女もいたのです。ちびで痩せている醜女ならば、そうそう狙われることはありません。という壬氏の問いに、と答える猫猫。それを聞いて壬氏はほっとします。花街にいたころには、そばかすの入れ墨を入れていたという猫猫。その染料となる植物を採取しに行った先で、人買いにさらわれたのでした。この国では人さらいは罪ですが、口減らしの身売りは合法です。たとえ人さらいから女官を買ったとしても、買った側が知らせなければ罰せられることはないのです。という壬氏。いつになく殊勝な雰囲気です。腹立たしいのはもちろんだけれど、としたうえで猫猫はと言うのでした。と壬氏はなおも謝罪の言葉を述べます。と猫猫が思ったところで、壬氏は自分のかんざしを猫猫の頭にさしました。つれなく壬氏の手を払う猫猫でしたが壬氏はと言い、猫猫の頭に手をやります。ほほを染め、照れくささをこらえるように眉を寄せた壬氏はそう言うと、あとは会場で、とその場を去るのでした。どうして男ものかんざしなんかを?を不思議がる猫猫に侍女たちはと羨望のまなざしを向けます。と面白くなさそうにしながら玉葉妃は、猫猫の頭に壬氏のかんざしをさし直します。と疑問に思う猫猫。玉葉妃は言います。〜薬屋のひとりごと第6話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第6話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第7話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第7話ネタバレここから〜冬の庭園で行われる園遊会は、強い風が吹きすさび、苦行とも思える寒さです。翡翠宮の侍女たちは身を寄せ合い、何とか暖をとろうとするのでした。庭園内にカーテンのような幕が張られた中で園遊会が行われています。ひな壇に帝や上級妃たちが座り、音楽や食事を楽しんでいるのです。猫猫は翡翠宮の侍女の貴園(グイエン)からカーテン越しに覗きながら、お偉方の面々の説明を受けます。中央に座っているのは皇帝、その左隣にいるのは先帝のお后、皇太后です。猫猫は皇太后の若々しさに驚きます。貴園は猫猫に耳打ちします。それを聞いて猫猫は青ざめるのでした。皇帝の右隣が空いています。その席は帝の同腹の弟君の席です。噂はいろいろあるけれど、とても病弱で、自室からほとんど出られないらしい、と貴園は教えてくれました。皇弟は執務も行っていないのだな、と猫猫が思ったところで、何やら侍女たちの大声が聞こえてきました。水晶宮の侍女たちが、翡翠宮の侍女たちの衣装が地味であるとケンカを吹っかけてきたのです。とそれに対し、水晶宮の侍女はと意地悪くさらに言い返します。このように、上級妃の侍女たちは、主人の代わりに代理戦争をしたがるのです。水晶宮の侍女たちはさらに、と猫猫の悪口を口々に言います。そばかすの化粧を落とした猫猫の存在に気づいていないようです。猫猫は水晶宮に派遣されていた時に、水晶宮の侍女を懲らしめるために脅したことがありました。その時の表情を再現し、威圧します。怯えた水晶宮の女たちはと捨て台詞を吐いて去っていくのでした。気にする侍女たちに猫猫はと皆を気遣います。「不幸な身の上に加えて(侍女たちの勘違い)、自ら顔を汚すほどの男性不振、水晶宮での壮絶ないじめを2か月間必死に耐えてきて(これも侍女たちの勘違い)、一切弱音を吐かず、私達にまで気を使って…」と侍女たちは妄想をふくらませ、猫猫を憐れむのでした。また大声が聞こえてきます。今度は徳妃と淑妃の侍女たちの争いです。「親子ほど年の差があれば、そりは合わないんだろうけど」「それにつけて元嫁姑だからいろいろとねぇ」翡翠宮の侍女たちは噂話をします。猫猫は後宮らしからぬ話だな、と思わず尋ねます。5年前、徳妃と淑妃は、先帝の妃と東宮妃(皇太子の妃という意味)の関係でした。しかし、先帝が崩御したことで関係が一変します。先帝の妃が一度出家して、俗世を捨てて、今度は現帝の妃として戻ってきたのです。なので、徳妃と淑妃は元嫁姑ということになるのです。親が権力者だからこそできる荒業だな、と猫猫は心の中でつぶやきます。「先帝が亡くなったのが五年前、当時、淑妃は齢30。徳妃は9つか。政略とはいえ、9歳で妃とはもやっとする話だ。しかも、皇太后はもっと幼い時に先帝に入内したと考えるといっそ吐き気がするな」と猫猫はげんなりします。そこで猫猫は衝撃の事実を耳にします。「!?」なんと、先帝のもとにいた妃は、徳妃の里樹だったのです。四夫人にはそれぞれ、己が象徴を与えられます。玉葉妃は真紅と翡翠、梨花妃は群青と水晶、淑妃は黒と柘榴(ザクロ)石、里樹妃は白と金剛石です。しかし、里樹妃は濃い桃色の衣装を着ていました。明らかに玉葉妃とかぶっている様子から、空気の読めない子なのかな、と猫猫は思いました。休憩になると、幕裏は武官や文官、女官でにぎわっていました。見ると、かんざしを手渡している様子。みんな、宝飾品を渡して、花の園にいる優秀な人材を勧誘しているのだと、桜花は猫猫に教えます。そういうことだったんだな、と納得する猫猫は同時に、奉公が終われば花街へ帰る自分には関係ない、と思います。桜花はニヤニヤしながら猫猫に言いますが、猫猫は興味がありません。そこへ、一人の大柄な武官が現れます。と言って、猫猫にかんざしを差し出すのです。腰帯には大量のかんざしをさしていて、どうやら、みんなに配って歩いているようです。「…どうも」「俺、李白っていうから。よろしくー」そう言うと李白は去っていきました。侍女たちは猫猫の周りに集まってきます。と答える猫猫。そこへ、梨花妃がお供を連れて現れます。「それだけでは寂しいでしょう?」そして猫猫の頭にかんざしを刺して、用事はそれだけ、と去っていきました。その様子を見ていた翡翠宮の侍女たちは、汗をかきます。園遊会は食事の段取りへと進み、猫猫は玉葉妃に付きそっていた紅娘と交代します。西側に武官、東側に文官が並び、なかなか壮観な眺めです。猫猫はその中に、高順、さきほどの李白を見つけますが、壬氏の姿はありません。そう思っているところに、毒見用の食前酒が運ばれてきます。猫猫は威勢よく毒見していきます。その様子に、周囲は注目します。宴席で使うなら即効薬が使われるだろうし、これだけ威勢よく毒見する毒見役は珍しいのです。魚と野菜のなますが運ばれてきます。ところが、青魚だけクラゲで代用してあります。いつもと異なるメニューに首をかしげる猫猫。見ると、徳妃の里樹妃が震えながらその青魚を食べています。帝の手前、残すこともできないので、里樹妃は青い顔をしながら飲み込みます。すると、里樹妃の後ろをついている毒見役の侍女が、にやり、とあくどい顔をしたのです。と猫猫は思います。次に運ばれてきたのは、スープです。猫猫は匙にすくったスープをじっと見て匂いを嗅ぐと、一息に口に運びます。何かに反応して、猫猫ははっと目を見開きます。そしてなんとも恍惚の表情を浮かべるのでした。その様子に周りは、どれだけ美味しい料理なんだ、と生つばを飲み込みます。次の瞬間、猫猫は衝撃の一言を放ちます。〜薬屋のひとりごと第7話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第7話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第8話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第8話ネタバレここから〜猫猫のセリフに、会場に緊張が走ります。手ぬぐいで口元を抑えた猫猫は、幕裏へと駆けていってしまいました。「あんなに旨そうに飲んでおいて、毒?」「今の玉葉妃の配膳だったよな?」周囲の武官、文官たちは騒然とします。幕裏から事態を見守っていた壬氏も動揺しています。猫猫が水場で口をゆすいでいると、背後から壬氏が近づいてきます。「随分と元気な毒見役だな」「ごきげんよう、壬氏さま」「ご機嫌はそっちだろ」満面の笑みであいさつする猫猫に、壬氏は呆れながら返します。久しぶりの毒で嬉しくて仕方ない猫猫は、頬が緩んでいました。毒見役が毒をおいしそうに食べるのはまずいと思って、すぐに宴席を離れたけれど、侍女があんな行動をすれば怒られるに違いないと、猫猫は叱られるのを覚悟します。壬氏は猫猫の手を取り、無理やり医務室に連れて行こうとします。壬氏は猫猫を心配して、不機嫌なのでした。「毒は手ぬぐいに吐き出しましたので、体に異常はありません」あのまま薬を飲んでいれば、今頃はしびれが全身に巡って―と猫猫は恍惚の表情を浮かべます。そして残りのスープをもらえないかと壬氏に頼み、怒られるのでした。手を引かれて医務室へと連れていかれる猫猫は、壬氏の後姿を見て、変化に気づきます。さきほど猫猫に渡したはずのかんざしは新しいものになり、少し襟元が乱れているのです。猫猫はなぜか武官に迫られる壬氏を想像します。「あっ」猫猫は思わず大きい声を出します。「どうした?」「連れてきてもらいたい方がいらっしゃるのですが」猫猫はそう、壬氏へ頼むのでした。お付きの侍女も一緒です。「こんなところにお呼び立てして申し訳ありません」「そんな壬氏さま、ちっとも気にしませんわ」壬氏の言葉に、里樹妃は嬉しそうに答えます。「用事というのは、こちらの侍女でして」壬氏が猫猫を紹介すると、あからさまに里樹妃はむっとします。里樹妃は、左腕をさすっていました。その腕には赤い発疹が現れていました。「食べられないのは、魚介ですか?」「どういうことだ?こっちにもわかるように説明しろ」猫猫の問いを遮るようにして壬氏が声を掛けます。「人によって、食べられない食べ物があるんですよ。私もそばが食べられません」「そんなものが食べられないのか」驚く壬氏に猫猫は、食べようと努力をしたが、気管支が狭まり、呼吸困難になること、少量でも発疹ができ、量の調整が難しく治りも遅いことを説明します。その猫猫の言葉に口元を抑える里樹妃。猫猫は、里樹妃にお腹の調子を確認すると、ここら先は腰かけて聞くように勧めます。園遊会の食事は、後宮が用意したものでした。玉葉妃には好き嫌いがないので、帝と同じものを食べます。しかし、出された「なます」は、いつもと具材が異なったのです。猫猫ははっきりとした口調で言いました。里樹妃がうなずくと、付き添いの侍女は青ざめます。猫猫はそれを見逃しませんでした。食べられない人間にしかわからないことだが、これは好き嫌い以前の問題だと猫猫は言います。「今回は蕁麻疹程度で済みましたが、時に心不全や呼吸困難を引き起こし、最悪の場合も考えられます。もし、それを知っていて与えていたのなら、毒を盛ったのと同じことです」その言葉に、里樹妃にも、侍女にも緊張が走ります。そして猫猫はお付きの侍女に声を掛けます。この里樹妃の侍女は、園遊会で里樹妃の毒見役をしていた侍女でした。青魚入りのなますを飲み込んだ里樹妃を見て、にやりと笑ったあの侍女です。猫猫は侍女に、万が一妃が口にしてしまったら、すぐに吐き出すように、と注意します。射貫くような目で、侍女を見る猫猫。侍女は下を向いて震えています。猫猫は木簡を取り出し、詳しい注意事項をまとめておいた、と侍女へ渡そうとします。そこで猫猫は言葉を区切って一呼吸置きます。「ゆめゆめ、忘れないようにしてください」そう言って、猫猫は恐ろしい形相ですごみました。震える手で木簡を受け取った侍女は、何度もうなずくのでした。猫猫は侍女が里樹妃に嫌がらせをしているのを分かっていたのでした。里樹妃と侍女が去ると、猫猫も玉葉妃の元に戻ろうとします。しかし、それを壬氏が引き止めます。「なぜ、わざわざ毒見に侍女を同室させた?」「さて、なんのことでしょう」とぼける猫猫に壬氏は食い下がります。猫猫はしばしの沈黙の後、口を開きます。〜薬屋のひとりごと第8話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第8話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第9話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第9話ネタバレここから〜昨日、玉葉妃の元へ戻ると、翡翠宮の侍女たちに病人は寝ていなさい、と寝かされていたのでした。毒を吐き出したとしても無事なわけがないというのが侍女たちの主張でした。猫猫が毒入りのスープを口にしても元気に走っていたので、毒入りのスープを飲んだ大臣がいたのです。その大臣は後で大変な目にあったことから、侍女たちは猫猫を休ませたのでした。猫猫はいつも通り「そばかす」の化粧をして、玉葉妃の元へ出勤します。玉葉妃は、猫猫がまたそばかすの化粧をしているのに気付きます。そういう猫猫に玉葉妃はあっさり承諾します。なんでも、あの侍女は何者だと、園遊会の後詰め寄られて大変だったそうです。猫猫は高順が訪れていることを知らされます。壬氏からあるものを預かってきたのです。それは、昨日の毒入りのスープが入ったままの銀製の食器でした。猫猫はじぃっと器を見つめます。その様子を高順は心配そうに見つめます。「食べないでくださいね」「銀は腐食が激しいので、今はもう酸化していて美味しくありません」美味しく、という言葉に眉をひそめる高順でした。猫猫はこの器を素手で持ったかどうかを確認します。器に触れていないことを確認すると、猫猫はニヤッと笑いました。猫猫は、綿と粉と筆を用意しました。高順は不思議そうに尋ねます。猫猫のいた薬屋ではいたずら防止に、触れてはいけない器に染料をつけていました。それを応用すると猫猫は言います。小さく丸めた綿に、量に気を付けながら粉をつけて、器にまぶしていきます。最後に筆で余分な粉を落とすと現れるのは―。「出ました」「白い痕がありますね」猫猫は指紋を検出していたのでした。指は油で出やすいので、金属などに触れると痕が残ってしまいます。食器磨きは、銀食器に跡が残らないよう気を付けて磨いているのです。「つまり、今ここに残っている指の痕は、磨かれた後に食器を持った人間のものだと」「そういことです」高順の言葉に猫猫はうなずきました。粒の粒子が大きいので見ずらいものの、指の痕の大きさと一で、器をどのように持ったのかくらいは推測できるだろう、というのが猫猫の主張でした。まず、器の周りに触れた3つの指の痕がありました。これらは、スープをよそったもの、配膳したもの、徳妃の毒見役の3つの指の痕です。そしてもう一つ残る痕は、器のふちについていました。これが4つ目の指の痕で、誰かは不明です。高順は言いました。「しかし、…なぜ毒見役が?」「…簡単なことです。徳妃の食べられないものを分かっていて、わざと玉葉妃の器とすり替えたのでしょう。明確な悪意を持った、いじめです」猫猫の言葉に、高順は衝撃を受けます。信じられない様子の高順に、猫猫は知っていることを話します。猫猫はこれはあくまで自分の推測だ、と前置きしたうえで話し始めました。里樹妃の園遊会での衣装は、派手な桃色でした。普通ならば、あの衣装を里樹妃が選んだ場合、侍女は他の衣装を薦めるか、妃に準ずる衣装を着るはずです。色が明らかに玉葉妃とかぶっているからです。しかし、お付きの侍女たちは、みんな白い衣を着ていました。あれでは、桃色の衣装を着ていた里樹妃は道化同然です。敵だらけの後宮の中で、妃が真に信じられるのは、自分の侍女たちだけです。幼い里樹妃は、侍女たちに似合うと煽られ、あの衣装を何の疑いもなく選んだのでしょう。その気持ちにつけ込んで、侍女たちは里樹妃にわざと恥をかかせたのでした。「侍女たちはそれだけでなく、食事を入れ替えてさらに里樹妃を困らせようとしたと?」「ええ、結果として命拾いしましたけど。嫌なやり方です」妃に限らず、多くの女は、妻は夫に身をもって尽くすものだと教育されます。里樹妃は幼いながら、先帝の妃となり、そのあとすぐに出家しました。それがたとえ政略であっても、亡き夫の息子に嫁ぐなんて、不徳も甚だしいと思われていました。「器のふちにある痕は、毒を混ぜた犯人のものでしょう。何者かが里樹妃の器に毒を入れ、里樹妃の侍女が玉葉妃のものと入れ替えた。幸い毒見の際に発見できたので、玉葉妃に被害はなく、里樹妃も結果的にいじめられたことで命拾いした、というのが事のあらましかと」高い順は、なぜ昨日あの侍女をかばおうとしたのか、と尋ねます。「侍女の命など、妃に比べたら軽くたやすいものです。ましてや毒見役の命ともなれば」猫猫は、このようなことをしたとバレてはあの毒見役の侍女が殺されてしまうだろうと彼女を思いやったのでした。上の判断一つで簡単に消されてしまうような立場なのは、猫猫も一緒です。と高順は言いました。高順は、壬氏にことの次第を「うまく」説明します。高順の「うまい物言い」に目をつぶりながらも、内部犯だよな、とつぶやき、壬氏は頭を抱えます。この騒ぎで昨日から眠る暇も、着替える暇もなく仕事に忙殺されていました。弱音を吐く壬氏を高順がいさめます。そして、頭にかんざしが挿しっぱなしなのを指摘しました。高順が部屋を後にすると、壬氏はげっそりした顔で「暇が欲しい」と願うのでした。〜薬屋のひとりごと第9話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第9話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第10話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第10話ネタバレここから〜「最近は園遊会の話で持ちきりだよ。翡翠宮って猫猫のとこだよね?じゃあ、毒を食べた侍女がいるんだ!」猫猫と小蘭は久しぶりにお喋りをしています。「…そうだけど」どこから仕入れてくるんだか、と思いながら猫猫は答えます。「その人一体何者なの?」「…さぁ、何者かな」毒殺騒ぎはけっこうな大事になっていました。「猫猫は園遊会でかんざしとか貰った?」「一応」猫猫は園遊会で、玉葉妃から首飾り、壬氏から男物のかんざし、梨花妃から紅水晶のかんざし、李白という武官が皆に配っていた参加賞を手にしていました。「そっかぁ、じゃあ後宮から出られるんだね」「え?」「あれ、こっから出るんじゃないの?」猫猫は園遊会のとき桜花がしつこく「しかし、興味のない猫猫は、内容を聞いていませんでした。猫猫は珍しく話に食いつきました。そして小蘭から「後宮は男子禁制のため、外の男性は女官に会いに来ることができません。その代わり、特別な許可があれば外から女官を呼ぶことができるのです。それが、園遊会で配っていたかんざしという訳でした。逆にこのかんざしを使えば、ここから出して欲しいと次女側から呼びかけることもできるのです。それを聞いた猫猫はニヤッと笑います。武術の稽古に精を出す李白に、木簡が届きます。義理のかんざしを本気にされたか、と李白は迷惑そうに木簡に目をやります。木簡には翡翠宮の文字がありました。李白は翡翠宮の侍女には一人しか渡していませんでした。園遊会で堂々と毒味をする猫猫の姿を思い出します。李白を呼び出した猫猫。現れた猫猫は、李白の記憶の中の猫猫と異なりました。「お前、化粧で化けるって言われないか?」「よく言われます」深いため息をついて、李白は聞きます。「俺を呼び出すなんて、どういう意味かわかっているのか?」「えぇ、実家に戻りたいと思いまして。身元を保証して頂ければ、一時帰宅は可能と聞きました。」けろっと答える猫猫。それを聞いて、李白はムッとした表情になります。李白は怒りに満ちた様子で言いました。猫猫は李白には少しも興味がなく、自分の里帰りのために利用しようとしているのを知って、李白はプライドを傷つけられたのでしょう。「こちらもそれなりのお礼を考えています。緑青館で、花見はいかがかと」そう言うと、3枚の紹介状を突きつけました。「緑青館?冗談だろ、一晩で銀が尽く後宮妓楼だぞ」紹介状は、白鈴(パイリン)、女華(ジョカ)、梅梅(メイメイ)の高級官僚でもなかなか手を出せない三姫のものでした。「ますます信じられん」李白は唸ります。「信じられないなら、仕方ないですね。非常に残念ですが、他を当たりますので…」猫猫は2つのかんざしを取り出し、李白に見せつけます。「紅水晶と銀製のかんざしとは、明らかに俺よりも高官。俺が知らないだけで、この嬢ちゃん、実はかなりすごい侍女なのか?いやいや怪しすぎる」李白はぐるぐると考えを巡らせます。「あの三姫に出会える機会なんて、今後二度とないだろう」猫猫は3枚のかんざしを李白の目の前から引き下げようとします。「どう、なさいますか?」「…俺の負けだ」猫猫の最後の押しに、李白は白旗を上げたのでした。「おめでとう猫猫!」「まさか猫猫が私達より先に」翡翠宮ではお祝いムードです。猫猫は口々にお祝いの言葉を口にする侍女たちに、不思議そうな顔をします。「ありがとうございます。お土産買ってきます」「彼とはどういう経緯で?」「まぁ、なりゆきで…」その様子をくすくすと笑いながら見ている玉葉妃。「良かったんですか?玉葉さま。」紅娘は、心配そうにしています。「まぁ、3日だけだしね」「あの様子、かんざしの意味、絶対わかっていませんよ」かんざしには、まだ意味があるようです。「そうね絶対。全く可哀想なのはあの子だわ」玉葉妃は壬氏を思い浮かべます。〜薬屋のひとりごと第10話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第10話のネタバレです。下、薬屋のひとりごと第11話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第11話ネタバレここから〜玉葉妃の言葉に壬氏は、あんぐりと口を開けました。美男子の面影もないその表情に、玉葉妃は涙が出るほど笑うのでした。猫猫は李白と馬車に乗っていました。故郷である花街へと帰るところです。花街は王宮廷の反対側に位置し、それほど遠い場所ではありません。塀と堀を超えれば歩ける距離なのに、馬車を出すとはなんとも贅沢なことです。そして李白は馬車を操りながら、鼻歌交じりにご機嫌の様子。茶を交わすだけでも銀が必要で、目の前で会えることすら名誉になる存在なのです。李白が浮かれモードになるのも無理はありません。こうして猫猫は、久しぶりの故郷へと足を踏み入れたのでした。妓女とはいっても、身を売るものもいれば、芸を売るものもいて様々です。売れっ子ほど希少価値を上げるために客を取りません。夜伽などはもってのほかなのです。そんな存在に憧れ、遊郭の門をたたく町娘もいるのですが、簡単になれるものではありません。李白と猫猫は、馬車を降ります。緑青館は中級から最上級の妓女がそろう、王都の花街の中でも老舗の楼閣です。緑青館の中から、店主であるやりて婆が出てきました。「おっ久しぶり婆さん!皆元気に」「なにが久しぶりだい、こんバカ娘」老婦人はいきなり猫猫の腹に一撃を食らわせます。毒を食べた猫猫はよくこのパンチで毒を吐き出していました。懐かしさを覚える猫猫でしたが、地面に崩れ落ちます。李白が心配します。「ふーん、これが上客かい?話によると出世株らしいね。おい、白鈴呼んできな。今日は茶挽き(お客がいないという意味)のはずだ」「白鈴…」李白はごくりとつばを飲み込みます。「こちらへどうぞ」禿(かむろ)が李白を案内します。李白の鍛え抜かれた腕を見た猫猫はと思いながら見送ります。後宮妓女はめったに夜伽をしませんが、だからと言って恋をしないわけではありません。一夜の夢を見られれば一生の思い出になるだろう、と猫猫は暖かいまなざしを向けるのでした。「猫猫、まったくお前は十月も連絡をよこさず消えやがって」「仕方ないだろう、後宮で働いていたんだから」そう言って猫猫は今まで後宮で働いた給金の半分を差し出します。李白の妓楼代は猫猫が払うということでした。やりて婆は鼻で笑います。お茶だけならまけてくれないかという猫猫に、「あの腕っぷしで白鈴がなにもしないわけないだろ」と返す店主。払えないなら、上客をよこしな」と言うのでした。「爺(じじい)は家にいるはずだ。さっさと行ってやんな」「ああ、わかった」花街の通りを抜けたところにある、小さな薬屋が猫猫の実家でした。「ただいま、おやじ」「おう、おかえり。遅かったね」そこで、猫猫の父が待っていました。お茶を入れてもらい、やっと帰ってこられたと猫猫はほっとします。そして、人買いに売られてしまった日のことを話し始めるのでした。「今は翡翠宮で毒見役してる。まだ年季があるから、明後日には後宮に戻るよ」「そうか」話し終えると、猫猫は眠くなってしまい、横になります。猫猫の父は、眠る猫猫を横目につぶやきます。翌朝、猫猫が目を覚ますと、そこに父の姿はありませんでした。鍬(くわ)がないのでどうやら畑に行ったようです。自分で育てた薬草で薬を作るのが好きな猫猫の父は、花街の外の林の中に畑を作っています。突然、ドンドンと扉を激しくたたく音がします。猫猫が見に行くと、禿が切迫した表情で戸を叩いていました。見ない顔なので、緑青館ではない、よその禿のようです。禿は猫猫の手をつかむと強引に連れていきます。禿が連れてきた先は中堅の妓楼でした。部屋の前には人だかりができていて、妓女たちが青ざめた様子で立ちすくんでいました。猫猫はとある匂いに気が付き、急いで部屋へと入ります。そこで見たのは、寝台の上で倒れている二人の男女でした。一人の妓女が介抱に当たっていました。猫猫は女のほうを妓女に頼むと、男の介抱に当たります。男は脈もなく、重症の様子。女のほうが毒を吐き出しので、妓女が水を飲ませようとします。猫猫は妓女たちに指示をします。猫猫は男のみぞおちを何度も押すうちに、男に毒を吐かせることに成功し、ひとまず二人の命は助かりました。猫猫は落ち着いて現場を見直します。毒を飲んでからあまり時間は経過していない様子です。酒瓶が二つ、割れたガラスの器。褥(しとね)に二色の染み。煙管と藁。そして散らかったタバコの葉が現場に残されています。炭を持ってきた禿に、猫猫は今度は木簡と筆を持ってこさせます。そして状況をしたためると、南の外壁の畑にいる父に知らせてくるように禿に頼みます。「応急処置は済んでいるけど、なるべく急いで」「わかった」木簡を受け取った侍女は駆け出します。〜薬屋のひとりごと第11話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第11話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第12話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第12話ネタバレここから〜禿に連れられて、ようやく猫猫の父が妓楼に現れます。「遅かったな、おやじ」「それは…この子が足を気遣ってくれたんだ」猫猫の父は、一の情報から二も三も知ることのできる人物です。猫猫の父はこうやって、猫猫に勉強させようとするのでした。「煙草の毒は手に入りやすくて、食べればすぐにむせるほどの即効性がある。心中で使うならこれだ」「水は飲ませなかったようだね?」「飲んだら逆効果だろ?」「胃液が毒の吸収を抑えることもあるから、その場合は水を飲ませたら逆効果だろう。でも、もしこれが最初から水に溶かしたものであったなら、薄めたほうがいいのかもしれない」猫猫は現場に落ちていた煙草の葉を見て、煙草の葉で心中しようとしたのだろう、と思ったのですが、吐しゃ物には煙草の葉は混じっていませんでした。猫猫が父に言われたことを反芻していると、禿がお茶の準備ができたと呼びに来ます。猫猫と父は、妓楼の女店主から、客用の茶菓子をふるまわれます。猫猫のお茶には、麦わらが添えられていました。それは、先ほどの事件のあった部屋に落ちていたものと同じものでした。女店主はお茶に麦わらを挿して飲んでいます。器に口紅がつかないように、ストローにして使っていたのでした。女店主は、父にお代を差し出します。今回のは花街では珍しくもない心中だろう、と猫猫は考えます。しかし、あの男は遊び人風だけれど、上等な綿の着物を着ていたのが気になりました。そして、男は甘い顔立ちをしていて、金にも女にも困りそうには見えませんでした。猫猫は、男の容態を見に行きました。男の寝ている部屋をのぞくと、きらっと光るものがありました。光るものは刃物で、先ほどの禿が男に包丁を振りかざしていたのです。猫猫はとっさに禿から包丁を奪います。「邪魔しないで!こんな奴、死んだほうがいいんだ!」禿は激高し、猫猫から刃物を奪い返そうと向かってきます。猫猫は禿に思いきり頭突きを食らわせました。禿は大声で泣きだしました。額には大きなたんこぶができています。大声を聞きつけて一人の妓女が様子を見に来ます。禿の姉は、違う店で働いていて、あの男に身請けされる予定でした。それなのに、急に身請けを白紙にされて、禿の姉は自殺してしまったのです。口説いては身請けをほのめかして、飽きたら捨てるのを繰り返しているような男だったのです。もちろん恨みを買って、刺されそうになったこともあったのですが、豪商の父は甘やし、ことあるごとに金で解決していたのでした。そう妓女が教えてくれると、こう付け加えます。禿が男を殺そうとしたことには目をつぶってほしいと言いたいようでした。先ほどの女店主がやけに手厚く歓迎してくれたのは、豪商の息子を自分の店で死なせずに済んだからだったのでした。目障りな客の生還に安堵する周りの様子も、禿には理不尽に感じられたのでしょう。猫猫が禿を見やると、禿は妓女にくっついて悲しそうに泣いています。猫猫はため息をつきました。猫猫と父は妓楼を後にします。猫猫はまだ先ほどの事件について考えていました。禿は、わざと猫猫の父がいない時間に来たのではないか、と猫猫は考えました。普通なら医者を呼ぶあの状況で、わざと不在の薬屋を選んだとすれば、あの禿は小さいわりに恐ろしい発想です。禿は、父を呼んでくるのが遅かったのも、それが理由かもしれません。猫猫はそう考えを巡らせます。でも何かが、猫猫の中で引っかかっていました。小さな禿にまで恨まれるような男が、惚れた腫れたで心中など起こすでしょうか。「まさか心中じゃなくて…」「猫猫、憶測でものを言っちゃいけないよ」父は静かに猫猫をいさめます。どうやら、真相には気づいている様子です。猫猫は必死で現場にあったものを思い出します。猫猫が現場で見たものは、倒れていた男女、ガラスの器、散らばったタバコの葉、それと…。父の言葉が記憶から浮かび上がります。現場には酒瓶が二つ落ちていて、褥(しとね)に二色の染みがついていました。そして近くには麦わらが落ちていたことを思い出します。猫猫は水瓶の水を柄杓ですくいます。父は猫猫の頭にポンと手をやりました。「もう、終わったことだよ」「わかってる」これは心中ではなく、殺人でした。しかも、殺そうとしたのは妓女のほうです。問題は、妓楼に護衛をつけるほど警戒している男に、どうやって毒を飲ませたのかでした。答えは簡単です。妓女が毒見をして見せればいいのです。色や重さ濃さが違う二つの酒は、水と油までとはいかなくても分離します。透明なガラスの器に注げば、層ができて見た目もきれいです。客を喜ばせる小ネタとして使ったのでしょう。普段から麦わらを使うのを見ている男は、当然疑問も持たず、毒酒を上の層から口で飲みました。男が倒れたことを確認すると、毒酒の匂いをごまかすために吸っていた煙草の葉をあたりにばらまきます。それから、妓女も死なないように少しの量、上澄みの酒を飲みます。殺人は自分が死んでは元も子もありません。男が死に、自分が生き残る計算をしたうえで、朝方にことを起こしたのでしょう。そして都合よく、それを発見する人間がいたのです。男を殺そうとした禿の行動はおかしいものでした。まるで、妓女が死なないと分かっているうえで行動しているようでした。禿に同情的な妓女も、金払いのいい女店主も、疑えばいくらでも怪しく思えます。猫猫は、緑青館にもらい湯をしに出掛けるのでした。〜薬屋のひとりごと第12話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第12話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第13話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第13話ネタバレここから〜白鈴は猫猫に、もう行くの?と声をかけます。「できるならずっといたいけど、後宮の仕事を放棄すれば李白どのに迷惑がかかるし」「それは残念ね。ねぇ?李白さま」白鈴は、べったりと李白にくっつきます。「いやぁ、実に残念だ」李白はでれでれと完全に鼻の下を伸ばしています。どうやら、いい夢を見られたようです。と思う猫猫なのでした。これから李白は生かさず殺さず搾り取られることになりそうです。猫猫は思いますが、とはいえ、前払いで足りなかった銀を補うのは猫猫です。緑青館のやり手婆は悪い顔をして笑っています。後宮から出たあとは、緑青館に身売りしなければならなくなりそうな猫猫でした。猫猫は翡翠宮へ帰ってきました。玉葉妃にお土産を渡す猫猫の後ろで、壬氏が睨んでいます。その圧を感じ取った猫猫は早めに退散しようとしますが、壬氏に捕まります。ぞっとする猫猫でしたが、後ろを振り返ると玉葉妃と侍女たちは期待に目を輝かせ、高順と紅娘はため息をついています。猫猫は困惑します。応接室を猫猫が訪れると、壬氏は険しい表情です。「里帰り、行ってきたようだな。どうだった?」「皆元気そうです何よりでした」「そうか」そこで壬氏は黙ってしまい、静寂が訪れます。「李白っていうのは、どういう男なんだ?」「身元引受人です」猫猫にとって緑青館の今後の常連であり、白鈴指名の残りの代金を支払ってくれる金づるです。「わかっているのか?その意味が」壬氏は苛つきながら訪ねます。それを聞いて壬氏は耳を疑うというような表情になりました。「…かんざしを貰ったのか?」「えぇ、何本も配っていたのものを義理で頂きました」「つまり、俺は義理でもらったものに負けたんだな?」猫猫は壬氏が「俺」と言ったのにいつもとは違う違和感を覚えます。「俺もあげたはずなんだが、まったく話は来なかったな」どうやら、壬氏は自分に話が来なかったのを気に食わないようだと理解した猫猫は不思議に思います。猫猫は壬氏を宦官と思っているので、妓楼に誘うのは失礼だと考えていました。それに壬氏ほどの美貌の持ち主が現れれば、並の妓女なら惚れ込んでしまうでしょう。そうなれば営業妨害もいいところです。やりて婆に折檻されるに違いありません。「申し訳ありません。壬氏さまにご満足頂ける対価など思いつかなかったもので」「お前、それを李白ってやつに払ったのか?」「えぇ、一夜の夢に喜んでおりました」顔は真っ青です。猫猫はさらにとどめを刺します。「大変ご満足頂けたようで、こちらとしても頑張ったかいがあります」壬氏は思わず持っていた湯呑を落としてしまいました。「何してるんですか。拭くものを持ってきます」玉葉妃は目に涙を浮かべて笑い転げています。紅娘は猫猫の頭を思わず、はたきました。あの後、笑い転げる玉葉妃から事情を聞いた壬氏はすっかり拗ねてしまいました。なだめる高順に、子供のように返事をしています。あれだけ急いで仕事を終わらせて、猫猫に会いに行ってみれば、知らぬ男と里帰りしているなんて、壬氏にとって青天の霹靂でした。次から次へ持ち込まれる仕事を渋々と片付ける壬氏。壬氏と高順はあることを聞かされます。玉葉妃、猫猫、壬氏、高順は話をしています。浩然(コウネン)という50歳の武人が亡くなったということでした。死因は酒の飲み過ぎとのことです。宦官は侍女のいないところで妃とは会話できないという決まりがあります。壬氏は紅娘を別の用事で外させたので、壬氏の狙いは猫猫と話すことでした。「本当に死因は酒の飲み過ぎだと思うか?」「酒による死因はいくつかあります。慢性的に飲み続ければ臓腑を病ませ、一度に大量摂取すれば死に至る場合もあります」「仲間うちの宴席で大量の酒をあおったと聞いている。だが、酒はいつもの半分の量だった。酒の飲み過ぎで死んだとは思えないのだよ」「宴席で飲まれていた酒の残りだ。浩然どのが飲んでいたものは瓶がひっくり返って全部流れてしまった」「では、その中に毒が入っていたら分かりませんね」そのとおりだ、と答える壬氏はどこかしおらしく、猫猫はやりづらいと感じます。「いつものようにふんぞり返って命令されたほうが楽なんだが」「変わったお味ですね。甘みのある酒に塩味をつけているような…」「浩然どのの好みなんだ。酒も甘口、つまみも甘味で。昔は辛党だったらしいが、突然甘党になったと言っていたな」壬氏は、浩然の思い出に浸りながら話します。猫猫は容赦なく思い出話を現実に戻します。猫猫は手酌で酒を継ぎながら嬉しそうに呑んでいます。「浩然さまの飲んでいたという瓶は手に入りますか?」「割れて破片になっているが」構わないと猫猫は言います。そして、もう一口酒を煽ると、真面目な顔でこう言いました。〜薬屋のひとりごと第13話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第13話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第14話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第14話ネタバレここから〜猫猫は調べ物の結果を読んで、なるほどな、と頷きます。そして、割れた酒瓶の破片に付着していた白い粉に指をつけてペロリと舐めました。これには壬氏も高順もびっくり。「その白い粉、舐めて大丈夫なのか?」「これはただの塩ですから、舐める程度なら問題ありません」「塩?」「そうです。浩然どのはある日突然辛党から甘党になり、以来甘味しか口にしなかったとお伺いしました」猫猫は割れた酒瓶のかけらを手にとって、壬氏と高順に見せます。「しかし、どうやら浩然どのの酒瓶には、乾いて粒が残るほど塩がたくさん含まれていたようですね。塩は人体に不可欠ですが、酒と同じく取りすぎると毒になります。飲んだ酒の量と、溶け込んだ塩の量を考えれば、これが原因であってもおかしくはないでしょう」壬氏は破片を見て狼狽します。「いや、いくらなんでもこんなものを飲んだら普通味で」「気づかなかったんですよ」猫猫は調査結果を差し出します。「浩然どのの生活習慣です。これを読む限りでは、塩味だけがわからなくなっていたのだと」「……まさか」浩然は味覚がなくなる病だったのだと猫猫は言います。真面目な人間ほど心を抑制し、それが病へ変わってしまうのです。浩然という男は、簡単な報告でもわかるほど有能な官僚で、禁欲的な性格でした。妻と子を病で亡くしてからは、酒と甘味だけが楽しみだったのです。「…では、誰かが浩然どのの酒瓶に塩を?」壬氏はうろたえます。「それを調べるのは私の仕事ではありません」ピシャリとした口調で言った猫猫でしたが、こう付け加えました。「ただ、昨日頂いた酒にも塩は含まれていました。甘口の酒が口に合わない辛党の人間が、肴に出た塩を入れたのだと思います」真面目な人間を毛嫌いする者は多いもの。酒の席のちょっとした嫌がらせのつもりで、気に入らない人間の酒瓶に悪戯を仕掛けたのです。それなのに、相手が平気な顔で酒を飲み続けていれば、気づくまで加えてやろうと思うかも知れません。それを聞いた壬氏は、高順に耳打ちをします。「わかりました」浩然と親しい壬氏になら、心当たりがあるでしょう。「卑怯だよな。ここまできっかけをあたえていれば、犯人を教えたのも同然なのに。それでも私は、誰かが罰せられる直接の原因になりたくないのだ」猫猫はそう考えていました。「すまなかったな助かった」そう言って立ち上がった壬氏は、黒曜石の房飾りを身に着けていました。喪に服していたのです。「そんなに立派な方だったのですか?」「ああ、小さい頃世話になった」その様子は普通の青年のようでした。壬氏は瓢箪に入った酒を取出します。「礼だ。バレないように飲めよ」「ありがとうございます」深々とおじきをする猫猫に、壬氏は不敵な笑みを浮かべて近づきます。「感謝している顔に見えないが」猫猫は途端に毛虫を見る目になります。「そうでしょうか。それよりお仕事に戻らなくていいんですか。ため込まないうちに終わらせては?」「真面目に仕事はしている」「あぁ、そういえば、こんな法案があったな。年若い者が酒に溺れるのをふせぐために、酒は二十歳になるまで禁止せよ、と」猫猫はその言葉に衝撃を受けます。「壬氏さま、それ絶対通さないでください」いつになく必死な顔で、壬氏の袖をはしと掴む猫猫でした。その顔を見て壬氏は楽しそうに笑みを浮かべます。〜薬屋のひとりごと第14話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第14話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第15話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第15話ネタバレここから〜「先日の報告がようやく届きました」「園遊会からふた月以上経っているぞ、時間のかけすぎだ」壬氏は厳しい口調でいさめます。「で、一体誰だ?」場面は変わり、後宮の外。外壁の所に何やら人だかりが出来ています。「冬場でよかったですね、水死体のわりには綺麗な姿ですよ」猫猫は、遺体のそばにしゃがんで、こともなげに言います。恰好から後宮の女官で間違いないようです。ヤブ医者についてきてほしいと言われて、猫猫は一緒に検死に来たのでした。ヤブ医者はぶるぶると震えています。「嬢ちゃん、代わりに見てくれないかい?」「だめです。死体には触るなと言われているので」「それは意外なことだな」突然周囲がざわめきます。騒いでいるのは女官たちでした。猫猫は水死体の様子を観察します。死んだのは背の高い女で、硬い木靴を履き、片足には包帯を巻いています。指先は真っ赤になっていました。猫猫は死んだ女のことを思いました。壬氏によると、死んだ女は尚食(後宮の料理をするところ)の下女で、昨日まで普通に働いていたそうです。衛兵の見解によれば、昨夜、塀に登って堀に身を投げた、いわゆる投身自殺ではないか、とのことでした。猫猫は言いました。後宮の城壁は猫猫の4倍ほどあり、登るための道具が一切ないからです。「一切何も使わずに上ることもできますが、あの下女には不可能かと」「その方法というのは?」猫猫は幽霊騒ぎの後、どうやって芙蓉妃が外壁に登っていたのかを疑問に思い、探っていたところ、城壁に突起を見つけました。職人が利用したと思われるその突起を使って、芙蓉妃は壁に登っていたのでしょう。芙蓉妃は舞踏が得意だったので登ることができましたが、たいていの女性は難しいでしょう。纏足とは、足を潰して布で固め、木靴に押し込める風習です。小さい足ほど美しいという基準で行われます。全ての女性に行われるわけではありませんが、後宮でも、纏足特有の歩き方をたまに見かけます。壬氏は、緊張した表情で言いました。「わかりません、ただ、生きたまま堀の中に落ちたことは確かだと思います。堀から這い上がるために何度も壁をかいたのでしょう。死体の指先が赤く血に染まっていました」「もっと詳しく調べられないのか?」「私は死体には触れるなど薬の師に教えられました」なぜだ?と問いかける壬氏に、猫猫は言いにくそうに答えます。好奇心旺盛な猫猫のことだから、一度でを出せば墓荒らしをするかもしれない、と父に止められていたのです。猫猫にもそれくらいの良識はあるのですが、なんだかんだ言いつけを守っているのでした。「なるほど」壬氏も高順も、妙に納得するのでした。猫猫と小蘭はおしゃべりをしています。「あ~あれ、自殺だったみたいだね。死んだのは柘榴宮の下女で、園遊会で里樹妃に毒を盛った犯人だったって!」「…そうなんだ」「位を下げて新しい上級妃を輿入れさせるって、結構前から話題だったし。下女が里樹妃に毒を盛ったのは、お仕えする阿多妃を思ってのことだったのかな」小蘭はなかなかの情報通です。現在、後宮にいる妃は、です。淑妃の阿多妃は、皇帝の一つ上の歳で、東宮のころからの妃でした。そして、即位前の言皇帝との間にできた男児を一人亡くしています。阿多妃もまだ子を産むのは可能でしょうが、子を多くなすための後宮と言う制度上、側室を辞退せざるを得ないのです。この毎日のように行われるお茶会は、妃の立派な仕事の一つでした。妃同士は腹を探りあうのです。玉葉妃の出身は、西方にある交易の中継地点となっています。人や時世の流れをつかむことが重要になるので、玉葉妃はここで得た情報を文にしたため、普段から実家に貢献しているようです。玉葉妃は、里樹妃を和やかに出迎えます。里樹妃は、緊張している様子です。里樹妃の後ろには、例の毒見役がいます。心配するほどの罰は受けなかったようです。以前、猫猫は高順に侍女たちが里樹妃をいじめていると報告しました。金剛宮の侍女たちは、今のところいじめているようには見えません。「間違いだっただろうか。何もないならそれで幸いだが」猫猫は思います。「甘いものは平気かしら?」「甘いものは好きです」玉葉妃に尋ねられて、嬉しそうに里樹妃は答えます。「良かった。柑橘の皮を似た蜂蜜なのだけど、とても体が温まるのよ。最近特に気に入っていて」玉葉妃の言葉に、里樹妃は青ざめます。その様子に気が付いた猫猫。「もしかして蜂蜜もダメなのか?」里樹妃の侍女たちは、また好き嫌いしているわ、と意地悪を口にしました。「愛藍(アイラン:翡翠宮の侍女)、ごめんなさい。これもう少し漬け込んだほうがいいみたい。違うものを出すわね」ほっとする里樹妃の様子に、金剛宮の侍女たちはつまらなさそうにします。その様子を猫猫は見逃しません。「残念だが、高順への報告は間違っていなかったようだ」猫猫が茶会を終えて廊下へ出ると、そこには壬氏が立っていました。「里樹妃と玉葉妃の茶会はどうだった?」「楽しく過ごされているように見えました」壬氏を通り過ぎる猫猫。「話はまだ終わっていないんだが」壬氏は猫猫に冷たくされて嬉しそうに猫猫の肩をつかみます。「園遊会毒殺未遂の犯人が、自殺した下女だという話は聞いたか?」「噂程度には」「下女は本当に自殺したと思うか?」「それを決めるのは私ではありません」「たかが下女ごときが、妃の皿に毒を盛る理由は?」「私にはわかりません」「明日から、柘榴宮に手伝いに行ってもらえないか?」猫猫には選択肢はありません。うんざりとした顔をします。「御意」〜薬屋のひとりごと第15話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第15話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第16話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第16話ネタバレここから〜屋敷は、それぞれの主の色に染まるもので、玉葉妃の翡翠宮は家庭的、梨花妃の水晶宮は高潔に洗練されていました。阿多妃の住まう柘榴宮は、古株なだけ物は多いのですが、無駄がなく実用的です。「風明、その娘は?見ない顔だね」阿多妃は猫猫を見つけて声をかけました。「年末の大掃除のお手伝いに」風明が答えます。阿多妃には、無駄なものが削り取られ、華や豊満さ愛らしさはありませんが、その分中性的な凛々しさと美しさが際立っていました。「妃の着る大袖とスカートより、乗馬用の胡服のほうが似合うだろうな」猫猫は、阿多妃を見て思います。「阿多さま、今日も麗しい」壬氏とは似て非なる魅力です。本当にこの柘榴宮に、里樹妃を殺そうとした犯人がいるのでしょうか。「いきなり来てもらってごめんなさいね」侍女頭の風明が猫猫に言います。先日、壬氏の報告に上がっていた侍女です。「まずは書物の虫干しをお願いしてもいいかしら?」「わかりました」猫猫は黙々と仕事をこなします。とても早く仕事を終えるので、風明は感心した様子です。柘榴宮の侍女たちは優秀でした。皆が妃をよく慕い、行き届いた仕事をしていました。その中でも、風明は群を抜いていました。侍女頭として人を扱う術を心得ていながら、本人がよく働くのです。と猫猫は思いました。侍女頭の稼ぎがいいのは分かっていますが、結婚しようとは考えなかったのでしょうか。翡翠宮の三人娘は、素敵な殿方が現れるのを夢見ていて、よくそんな話をしていました。妃への忠義とは別に、家庭を夢見るのは自然なことです。猫猫は風明の仕事ぶりを見て、「嫁がないのも、妃への忠義心なのでは」と考えました。忠義心の強さは、毒殺を行う理由にもなり得ます。しかし、その前に他の上級妃の座が空けば話は別です。皇帝は幼い里樹妃は趣味ではないので、彼女のもとへはおそらく通っていません。里樹妃は、妃としての役割を果たしていないのです。それが侍女たちに舐められる原因ともなっています。猫猫はそう仮説をたてました。猫猫は掃除をしながら、たくさんの瓶を見つけます。それらは全部、蜂蜜でした。侍女によると、風明の実家は養蜂をやっているとのことでした。「蜂蜜と言えば最近どこかで」猫猫は、二階の欄干を掃除しながら考えていると、意外な人の姿を見つけます。木陰に隠れながら、きょろきょろとあたりを見回しています。猫猫は、先日のお茶会で里樹妃が蜂蜜に怯えていたのを思い出します。一日たっぷり働いて、猫猫は疲れた様子でため息をつきました。「お疲れさま」そこへ風明が現れます。風明は猫猫を自室の前まで呼び寄せると、獣の毛皮を手渡しました。今夜は冷えるから、と貸してくれたのです。猫猫は風明の部屋の隅に、布でくるまれた何かが置いてあるのを見つけます。「ゆっくり休んでね。おやすみ」風明は、明るい笑顔で猫猫にそう言いました。「おやすみなさい」「以上が柘榴宮での出来事です」「そうか、それで?」壬氏はくつろぎながら、紅茶に蜂蜜を垂らしています。「それ以上も、それ以下もありませんが」猫猫は顔をしかめます。「こちらは普通の薬屋だ。スパイの真似事などできるわけがない」心の中で毒づきます。「怪しい人物がいたんじゃないか?手がかりが必要なら、また柘榴宮に行ってもいいんだぞ」猫猫は口を開くのを一瞬ためらいます。「自殺した侍女の靴は、堀から見つかりましたか?」「探したが見つからなかった」「…そうですか。あくまで可能性の話ですが、事件に関与してるとすれば、侍女頭の風明さまではないかと」ため息をつきながら、猫猫は話します。壬氏は根拠は、と尋ねました。「風明さまの部屋を覗いた時、纏足の靴が片方だけ落ちていました」猫猫は、風明の歩き方には纏足の特徴がなかったので、風明のものではないと思ったことを伝えます。「どこかで片足だけ拾う出来事があったのだと思います」「…まぁ、及第点だな」猫猫はげんなりします。「何が及第点だ。これ見よがしに蜂蜜を食べておいて。この程度は調べていたのだろう」猫猫は、風明が何か企てているとは思えませんでしたが、客観的にものを見なければ正しいことにはたどり着かない、と考えを巡らせました。「いい子にはご褒美をあげないとね」壬氏は猫猫に迫ります。「遠慮します。他の方に差し上げて下さい」猫猫は壬氏を睨みながら、後ずさりします。「この変態、顔がいいから何をしても許されると思っている。そういえばそういう人間だったな」とうとう壁際にまで追い詰められてしまった猫猫は、高順に助けを求めますが、当の高順は見て見ぬふりです。「甘いものは嫌いなのか?」「辛党ですので」執拗に迫る壬氏。猫猫のほうが立場が下なので、殴ったりして逃げることができません。「せめてこれが鳥兜の密なら割りきれたのに。毒花の密はやはり毒か」「うちの侍女に何をしているのかしら」そこに現れたのは玉葉妃でした。玉葉妃は壬氏を怒って追い出します。「子猫(シャオマオ)、つい悪戯が過ぎただけなので壬氏さまを許してくださいませんか?」そう言う高順に、止めなかったくせに…と猫猫は恨みがましい目を向けます。「いくつか確かめたいことができました」猫猫は高順にそう言いました。猫猫は、里樹妃の住まう金剛宮を訪ねました。里樹妃の部屋に通された猫猫は、尋ねました。「蜂蜜はお嫌いですか?」「なんでわかるの?」驚く里樹妃。顔に出ていますから、と言われふくれます。「蜂蜜でおなかを壊されましたか?」そう聞く猫猫に、里樹妃は首を振ります。それ以来、乳母や侍女たちに蜂蜜は食べるなと言われていたのでした。「そうでしたか」「ちょっと!?いきなり来て里樹さまにずけずけと失礼じゃなくて?」金剛宮の侍女が、猫猫に言いがかりをつけてきます。こうやって外部のものを悪役に仕立てて、味方のふりをしているのでしょう。幼い里樹妃は、侍女たちに頼らざるを得ないのです。だから本人はいじめに気付けず、表ざたにもならなかったのです。「私は命を受けて来ました。言いたいことがあるなら、壬氏さまに直接どうぞ」蜂蜜の仕返しです。「里樹さま、もう一つだけ。柘榴宮の侍女頭、風明さまとは面識はありますか?」里樹妃の表情に困惑の色が見えます。「それは」口ごもる様子に、猫猫は高順と目配せをします。「できればそのお話、詳しくお聞かせください」猫猫は高順に頼んで、後宮の出来事を記した書物を読ませてもらいます。同時期には、先帝の御子―今の皇弟も生まれています。阿多妃の男子だけが、乳幼児期に死亡。その後、先帝が崩御し、新しく後宮ができるまで、現帝の子は生まれていません。当時の妃は阿多妃だけだったのです。意外にも、帝は10年以上、1人の妃と連れ添っていたのです。現帝と阿多妃は乳姉弟であり、愛着があったのかも知れません。猫猫は、書物の文字を指でなぞります、「十六年前の乳幼児死亡、子を取り上げたのは―」「なにしてんだよ、おやじ」〜薬屋のひとりごと第16話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第16話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第17話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第17話ネタバレここから〜猫猫は、風明を訪ねました。と言って猫猫は箱を持ってきました。そして、その箱の中身を風明に見せると、風明の顔色が変わりました。「風明さまにお話ししたいことがあります」「わかったわ、中に入って」風明は猫猫に茶菓子を振舞います。部屋にはほとんど物がなく、片づけられていました。「いつ柘榴宮から引っ越されるのですか?」「察しがいいのね」荷物がまとめられているのは、新年の挨拶とともに、新しい上級妃を迎えることが決まったからなのでしょう。皇帝と乳姉弟という実の両親よりも深い関係が、彼女の今の地位を保っていたに過ぎなかったのです。せめて17年前に生まれた男児が生きていれば、状況は変わっていたかもしれませんが…。阿多妃は青年のような凛々しい姿をしていて、女らしい匂いはしませんでした。「阿多妃は、もう子を産めないのですね。出産時に何かあったのですね」「あなたには関係のない話ではなくて」突然の猫猫の言葉に、風明は冷たく返します。「関係ない話ではないです。出産の場にいたのは私の養父なので」それを聞いて風明は、突然立ち上がります。無表情を崩していません。「不幸なのは、皇弟の出産と重なったことでしょうか。皇后と天秤に掛けられ、後回しにされた阿多妃は難産だったのでしょう。その時ですね、阿多妃が子宮を失ったのは」その後、なんとか無事に生まれた子も、幼くして亡くなってしまいます。「責任を感じているのでしょう?」猫猫は風明に言います。体調の良くない阿多妃の代わりに生まれた子のお世話をしていたのは風明だったはずです。「…何もかも知っているのね。阿多さまを助けることもできなかった、やぶの娘なのに」冷たい表情で風明はそう言いました。「亡くなった子の死は、毒おしろいが原因だと言われていますが、それは違いますよね。あなたの言うやぶ医者は、鉛白入りのおしろいを使うのを禁じていたはずです。聡明なあなたが、それによって赤子を死なせることはない」猫猫は、さきほど風明に見せた箱を開けます。「本当の死因はこれです」中に入っていたのは、つつじの花と蜂蜜の入った小瓶でした。鳥兜や蓮華つつじのように、毒を持つ花は多くあります。そして、毒を持つ花は密にも毒性があります。実家が養蜂を営む風明は、当然そのことも知っていました。「でも、あなたは知らなかった。毒を含まないただの蜂蜜が、毒見をした上で、滋養にいいと与えていた薬が、抵抗力の弱い赤子には致命的な毒になることを」そして、阿多妃の子は息絶えてしまいました。死因は謎として。当時医官だった猫猫の父、羅門(ルオメン)は、出産時の処置も含め、度重なる失態により、肉刑として片ひざの骨を抜かれます。そしてその後、後宮を追放されます。「阿多妃には知られたくなかったんですね。自分が唯一の子を殺した原因だと。だから里樹妃を消そうと考えた」猫猫は、里樹妃を訪れた際に、風明さまと以前から面識はあるか?と尋ねていました。先帝妃時代、里樹妃は年上の嫁である阿多妃に懐いていました。阿多妃も里樹妃のことを可愛がっていました。親元から離れた幼い娘と、もう子供を持つことのできない女性は、寄り添うように後宮で生きていたのです。里樹妃が赤子のころ、蜂蜜を食べて生死の境を彷徨ったことです。もし、里樹妃が阿多妃のもとを通い続ければ、そのことを阿多妃に話すかもしれない、と風明は思いました。そして、風明は訪れる里樹妃を追い返すようになりました。そのうちに先帝が崩御し、里樹妃は拒絶された理由も分からず、出家していったのです。ところが、里樹妃は再び後宮に現れました。今度は同じ上級妃-阿多妃を追いやる立場として後宮に戻ってきたのです。そして里樹妃は、図々しくも、母親を求めるように、阿多妃に会いに来ようとしたのです。猫猫の話を聞いて、風明は笑みを浮かべて口を開きます。「欲しいものは何?」「そんなものはありません」猫猫に緊張が走ります。風明の背後には、包丁がきらっと光っています。「そんなの意味がないことを、ご自分で分かっているでしょう?」しばらくの沈黙の後、風明は猫猫に尋ねます。「あなたには大切な人はいるかしら?」阿多妃は、女でありながらしっかりした意思を持ち、東宮と同じ目線で話せる人物でした。心から阿多妃を尊敬した風明にとって、阿多妃が一番大切な人でした。「ねぇ、自分の一番大切な人の、一番大切なものってわかる?私はそれを奪ってしまったのよ!この世で一番大切なものをこの手で!風明は悲しみと怒りに震えて叫びました。「子供は七つになるまでわからないものだ。子は天の命に従ったのだ」阿多妃が毎夜泣き明かしていることを風明は知っていました。その姿を見て、猫猫はどのような思いで17年間仕えていたのだろう、と思いました。猫猫の動きは高順によって報告されていて、壬氏に隠し事はできません。もしここで猫猫を消して事件を隠そうとしても、風明が極刑を逃れるすべはありませんでした。そして、そのことを風明は十分理解していました。「私に提案があります」「結果は変わりません。それでもよろしければ、どうか受けてください」「というわけで、風明が自首してきたのだが、何か知らないか?」「なんのことだかわかりませんが、犯人が自首してくるなんて良かったじゃないですか」しらを切る猫猫に、壬氏は追及しますが、かわされてしまいます。「風明の動機は、阿多妃の四夫人の座を保つためだったそうだ」自身の死は免れなくても、阿多妃に赤子の死因を隠すことはできます。それが権力もない猫猫にできる最大限でした。「しかし、阿多妃は上級妃を下りることが決定している。もともと決まっていたことだ」壬氏はそう言いました。離宮で囲うのは珍しいことですが、すべて皇帝の判断だそうです。「そうですか」猫猫は、窓の下につつじの花が飾られているのを見つけます。そして、花を取って蜜を吸いました。壬氏も真似をして吸ってみます。「甘いな」「毒ですけどね」慌てて吐き出す壬氏。その様子を猫猫は笑みを浮かべてみています。〜薬屋のひとりごと第17話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第17話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第18話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第18話ネタバレここから〜風明の処刑は滞りなく終わりました。猫猫は外壁に登り、月を眺めています。綺麗な月だ、と猫猫は思います。そして壬氏にもらった酒を残しておけば月見酒ができたのにと残念がるのでした。「おや、先客か?」「この間手伝いに来ていた侍女だな」猫猫は場所を空けようと、降りようとしますが、阿多妃が止めます。そして猪口を差し出します。「一杯付き合わないか?」猫猫は阿多妃をちらっと見ます。阿多妃は誰かに似ているような気がしました。「男のようであろう?」「そのように振舞っているようにも見えます」猫猫の答えに、阿多妃は正直者だなと笑いました。明日、阿多妃は後宮を去ります。「ずっと私は皇帝の友人だったんだ。即位前に最初の相手として指南役になっただけ。だから、息子がこの手からいなくなってからは、乳飲み子の時から一緒にいた幼友達に戻った」阿多妃は、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎます。「まさか淑妃に選ばれるとは思わなかったよ。お情けでやっていた飾りの妃を、早く誰かに受け渡したかった。なのに何故、こんなにもすがりついていたのだろう」猫猫は何も言わず、静かに聞いています。阿多妃は立ち上がると、酒を堀へと流します。「水の中は寒かっただろうな、冷たくて苦しかっただろうな」自殺した下女の苦しみを想い、弔ったのでした。「バカだよな。みんなバカだ」「…そうかも知れません」酒瓶からぽたぽたと水滴が垂れます。阿多妃の涙も混じっていたのかもしれません。そして考えを巡らせました。やはり、あの下女は自殺だったのでしょう。風明が自ら絞首台に登ったように、下女もまた、阿多妃に嫌疑がかからないよう、自分の意思で冷たい水の中に沈んだのでしょう。強い風が吹き、猫猫は寒さに震えます。「…私もそろそろ降りるか」「そこでなにをしている!」驚いた猫猫は思わず外壁を登る手を離してしまい、背中から落ちてしまいます。「…誰だよ、いきなり」猫猫は痛みに呻きますが、思ったよりは痛くありませんでした。「悪かったな」「うわっ、壬氏さま、なぜここに?」「それは俺のほうが聞きたい」壬氏が受け止めてくれたので、猫猫は怪我をしなくて済んだのです。仁氏の膝に乗るような形になっているのに気が付き、猫猫はどこうとします。「…あの壬氏さま。離して頂けますか?」「…寒いから、やだ」壬氏は酔っているようでした。付き合いをしていたそうです。風邪を引くから部屋に戻るよう促す猫猫に、壬氏はぼそぼそと話します。「…家主は、俺を酒に誘って飲ませるだけ飲ませた挙句、どこかへ出かけてしまった。戻ってきたと思ったら、すっきりしたから帰れと追い出された」猫猫は、壬氏をそんな風に扱える人物が後宮にもいるのかと驚きます。ですが、べたべた引っ付く酔っ払いに付き合っていられない、と拘束を解いてもらおうと、もぞもぞ動きます。「…あの、壬氏さ……」壬氏は猫猫を抱きしめる手に一層力を入れます。「もう少しだけだ。少しだけ温めてくれ」猫猫は小さくため息をつくと、壬氏の膝の上で、ぼんやりと月を眺めるのでした。後宮を取り仕切っている壬氏が、その冠を受け取ります。達成感さえ見える堂々とした阿多妃の姿は、後宮を追い出される哀れな女ではありませんでした。猫猫はその様子を見守ります。阿多妃と向かい合う壬氏を見て昨夜、阿多妃が誰かに似ていると思ったのは、壬氏のことだと気が付きました。「息子がこの手からいなくなってから」いなくなってから?死んでからではなく?まるでまだ生きているようにも捉えられる言い方です。ほぼ同時に生まれた皇弟と阿多妃の子供が、取り換えられていたとしたら?猫猫は考えを巡らせます。皇太后の出産と重なったことで、子を産めなくなった阿多妃は、皇太后のもとに生まれてきた赤子の方が、より庇護を受けることを実感します。産後の肥立ちが悪い阿多妃に、何が正しいのか判断などできなかったかも知れません。しかし結果として、己の息子が助かったのであれば、それは阿多妃の本望だったでしょう。後日入れ替わりが発覚して、それも本物の皇弟が死んだ後だったとすれば、赤子の入れ替わりに気付けなかったとして猫猫の父・羅門が肉刑まで受けたことにも納得がいきます。だとすれば、皇弟が今狭い立場にあることも、潔い阿多妃が後宮にとどまり続けた理由も―。「実にくだらない。ばかばかしいくらいの妄想である」「お待ちください!お待ちください、里樹妃さま」去っていく阿多妃の背を追いかけて、里樹妃が走ってきます。どうしても最後の別れをしたかったのでしょう。「阿多さま!」里樹妃は、裾を踏んづけてしまい、無様に転んでしまいました。失笑する金剛宮の侍女たち。里樹妃は恥ずかしさと悲しさで、顔を涙でぐちゃぐちゃにしています。阿多妃はかがむと、里樹妃の頬に手を添えました。〜薬屋のひとりごと第18話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第18話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第19話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第19話ネタバレここから〜犯行は風明の一存であるとされ、主である阿多妃に沙汰がなかったのは幸いでした。風明の実家は養蜂以外にも手広く商いをしていたらしく、関係者の数は多かったのです。後宮内にも80人ほどの子女がいました。事件に関与した風明の関係者を雇うことはできません。関係者の名簿の中には、猫猫の名前がありました。どうやら、猫猫がかどわかされて身売りされた先が、風明の関係者だったようです。「どういたしましょうか?壬氏さま。お望みであれば隠ぺいしますが」壬氏が猫猫を手元に置いておきたい、と思えば叶うでしょう。猫猫は、平民と貴人の区切りをつけたがります。どんなに嫌な命令でも、受け止めるでしょう。好きでもない場所に、引き留められた時が付いた時、どのように受け取られるのか、壬氏は恐れていました。平民と貴人、区切られた境界の隙間が、これ以上開くのが嫌だったのです。「壬氏さま、都合の良い駒ではなかったのですか?」苦悩する壬氏に、いさめるように高順が声をかけました。「大量解雇?」「そうだよ、例のお家と取引のあった家の娘は全員やめなくちゃいけないんだって。これが結構な人数になるみたい」猫猫と小蘭は井戸端会議中です。「なんだか嫌な予感がする」と猫猫は思います。猫猫が以前、確認した書類上の実家は、交易を行っている商家でした。風明の実家と何らかの接点はあるかもしれないと考えたのです。「今解雇とか、かなり困るんだが、いや花街に戻れるのは嬉しいが、時期が悪い」上客を送り込むから、と目をつぶってもらったものの、それができなければ、猫猫に妓楼で客を取らせると言われていたのです。「今帰れば、確実に売り飛ばされる!」猫猫は怯えます。「…壬氏さまっ」遠くから猫猫は壬氏を呼び止めます。「珍しいな、息が荒いぞ」「あっあの」「落ち着け、顔が真っ赤だ」「今度の大量解雇のことだろう?」「はい、私はどうなるのでしょうか」壬氏は猫猫に名簿を見せます。「つまり解雇というわけですね」「どうしたい?」猫猫はスカートのすそを握りしめます。「私は、ただの女官です。言われるままに下働きでも、まかないでも、毒見役でも、命じられればやります」猫猫は、心の中で叫びます。そうだ、命令されればできることはできるだけやり遂げる。多少給金が下がっても文句は言わない。身売りまでの執行猶予ができれば、新規顧客を捕まえて何とかする。だから、解雇にしないでくれ!!思いつめた表情の猫猫を見て、壬氏は口を開きます。「わかった」「それでは」ぱぁっと顔を輝かせる猫猫。しかし―「金ははずもう」落ち込んですらいます。猫猫は後宮にはいたくないと思い込んでいる壬氏と、解雇しないで欲しいと口に出して言えなかった猫猫。二人はとことんすれ違ってしまいました。世話になった場所、一軒一軒に挨拶して回ったそうです。さて、高順は困り果てていました。壬氏が膝を抱えて、落ち込んでいます。これでは仕事になりません。玉葉妃には「後悔しても知らないわよ」と捨て台詞まで吐かれて、壬氏はもう、ボロボロです。「やっぱり引き止めれば良かったのでは」「何も言うな」お気に入りの玩具をなくした壬氏に、新しい玩具を与えるのは骨が折れることなのです。あの玩具がいいと言って新しい玩具を拒む、小さいころの壬氏の姿が思い出されます。「いや、あの娘を玩具と一緒にしてはいけないのかもしれない」高順はそう思います。「玩具として扱いたくなくて、引き止めるのをやめのだから」手間のかかるやっかいな主人にため息をつきながら高順は考えます。〜薬屋のひとりごと第19話ネタバレここまで〜以上が、薬屋のひとりごと第19話のネタバレです。以下、薬屋のひとりごと第20話のネタバレです。〜薬屋のひとりごと第20話ネタバレここから〜やり手婆はどうしても猫猫を妓女にしたいようです。猫猫は詩歌も吟ぜず、二胡も弾けず、舞踏もできません。薬学以外に興味もない薬屋の娘なのに、どうにもここ数年、その動きが顕著です。「仕事だよ、行ってきな」猫猫は、やり手婆に馬車に乗せられます。今夜の仕事は、妓楼の外で行われる貴人の宴でした。妓女を屋敷の呼ぶのにはそれだけ費用が掛かります。その上、一晩の酌で一年の銀が消える緑青館の三姫-梅梅、白鈴、女華をまとめて呼びつけるほどの上客でした。猫猫は馬車で一緒に揺られながら、金はあるところにはあるものであると思いました。「自分の役目は引き立て役だ。せめて客の杯が空かぬよう、目を配らせよう」屋敷は目のくらむような調度品ばかり、よほどの金持ちであることが伺えます。猫猫と三姫たちは部屋に通されました。ずらっと並ぶ三姫たちに、高官たちは見とれます。李白の紹介の宮廷高官と聞いていましたが、思ったよりは年若い印象です。「こんな金持ちがいるなら、もっと早く紹介してくれよ、李白の縁なら借金も少しは減っただろうに」と猫猫は思います。後宮を出る際に思ったより報酬をはずんでもらえたので、とりあえず身売りは免れているのでした。猫猫は慣れない笑顔を張り付けて、お酌して廻ります。「つまらないのか?」他の妓女たちはみな客の相手をしています。「仕方ない」猫猫はそのお客の相手をすることにしました。「失礼します」「一人にしてくれ」猫猫が言いかけたところで、その客は言葉を遮りました。「…一人になりたいんだ」猫猫はその声に聞き覚えがありました。猫猫は顔を隠すようにうなだれている客の前髪をかき分けます。「壬氏さま?」「…お前」壬氏の目の下にはくまがあり、やつれた様子です。「化粧で変わるって言われないか?」「…よく言われます」会いたくて仕方のなかった猫猫を目の前にして、壬氏は思わず猫猫の手を取ろうとします。が、猫猫はひょいっと交わしました。「なんで逃げる」「妓女には触れないでください」「そもそも、なんでそんな恰好を?」「アルバイト中です」「妓楼でか?」途端に壬氏は青ざめて震えます。「……もしかして」「別に個人で客を取ったりしてませんよ、まだ」「まだ…」今のところは事なきを得ている猫猫でしたが、やり手婆が客を連れてくる可能性もなきにしもあらずでした。「なら俺が買ってやろうか?」冗談でしょう、と言いかけた猫猫でしたが、思い直します。「…いいかも知れませんね」まさか猫猫を身請けできる…?「もう一度、後宮勤めも悪くないです」ガクッと壬氏は崩れ落ちます。「あそこが嫌でやめたんじゃないのか?」「はぁ?そんなこといつ言いました?続けたいと打診したのに、解雇したのはそちらでしょう」猫猫は、すねたような表情を見せて言いました。「確かに面倒事は多かったですが、毒見役などなろうと思ってなれるものじゃありませんし。頂けないのは、毒実験ができないことくらいでした」「毒実験はさすがにやめろ。そうだよな、お前。そういうやつだよな。言葉が足りないって言われないか?」「…よく言われます」壬氏はまた、手を伸ばし、猫猫に触れようとします。猫猫は「規則ですから」と避けるのですが、壬氏は諦めません。「片手だけ、指先だけだ」しばらく押し問答が続きます。粘着質な壬氏の性質を思い出し、ため息をついて猫猫は観念しました。「指先だけですよ」そして、猫猫の紅が付いた指を自分の口に当てたのです。頬を染めてにっこりと笑う壬氏。あまりの出来事に震える猫猫でしたが、壬氏の表情を見て、顔を赤く染めてそむけました。「…う、うつるじゃないか」くすくすと笑い声が聞こえました。妓女たちが様子を伺って微笑ましそうに笑っています。「高順さま!