ハイレゾ 周波数 スピーカー

ハイレゾソースの再生を想定した新モデルとして、「Soavo」(ソアヴォ)シリーズのフロア型「NS-F901」(1台21万円)を発売した、ヤマハミュージックジャパン AV流通営業本部企画室 広報の安井信二氏に話を聞いた。そこからは、CD時代とは明らかに違う“これからのスピーカーに求められる姿”が見えて来た。 話の前に、「Soavo」について簡単に振り返ってみよう。モニタースピーカーやシアタースピーカーを色々手がけているヤマハだが、「Soavo」はそうした既存シリーズとは別のものとして、2006年に第1弾のフロア型「Soavo-1」が発売された。「Soavo」とは、イタリア語のSoave(優美な)とVoce(声・歌声)を合わせた造語で、その由来の通り、「歌声を優美に聴かせる」事をコンセプトとしている。 その後、2008年にエンクロージャの仕上げを従来の突き板から、ヤマハのピアノと同じピアノフィニッシュに変更し、ユニットにも改良を加えた「Soavo-1(BP)」が発売。そして昨年12月から発売されたのが、今回取り上げる「NS-F901」で、第3世代モデルと言えるだろう。前述の通り、「NS-F901」は“ハイレゾの再生を想定したスピーカー”であるのが大きなポイントだ。 3ウェイ4スピーカー構成のフロア型で、エンクロージャはフロントバスレフ。ツイータは3cm径アルミドーム、ミッドレンジは13cm径、ウーファは16cm径で2基構成となっている。 エンクロージャはズドンと、内部が空洞になっていると思いがちだが、実はツイータ+ミッドレンジと、ウーファ×2基の間が、スラントパーテーションで完全に区切られている。2ウェイの密閉型スピーカーの下に、ダブルウーファのバスレフスピーカーがドッキングしたような構造だ。 ただ、こうしたエンクロージャの構造は初代の「Soavo-1」や2代目「Soavo-1(BP)」と変わっていない。もっと言えば、初代の「Soavo-1」の時点で高域の再生レンジは50kHz(-10dB)/100kHz(-30dB)をクリアしており、新モデル「NS-F901」も高域は50kHz(-10dB)/100kHz(-30dB)で同じだ。では「Soavo-1の時点で“ハイレゾ対応”と謳っても良いのでは?」と思うが、そう簡単な話ではない。 つまり、ソースのアラを補うため、あえて施してきた工夫が、ハイレゾ時代のニーズとはマッチしなくなっているという事だ。 では、ハイレゾの良さをそのまま聴かせるために、具体的には何をしているのだろうか。安井氏は、「ミッドレンジとウーファの振動板に注目して欲しい」と言う。各ユニットの口径はミッドレンジが13cm径、ウーファが16cm径でサイズは従来モデルと同じだが、振動板の素材が異なっている。 つまり、トランジェントの良いユニットを搭載するだけではダメで、ハイレゾの情報量をキッチリ再生するためには、周波数特性もできるだけフラットにする必要があるというわけだ。 ここまでは中高域の話だが、NS-F901では低域にもこの思想が貫かれている。前述のように、ダブルウーファはフロントバスレフのエンクロージャに搭載されているのだが、バスレフポートを覗いてみると、中に何やら“段差”のようなものを発見。安井氏によれば、ポートのだいたい半分から奥が一段細くすぼまっており、段付きポートになっているのだそうだ。指を突っ込んで触ってみると、力を入れると少し変形する程度の硬さの素材がポートの内側にグルっと取り付けられている。 スピーカーを購入すると、円柱形の吸音材のようなパーツが付属していて、バスレフポートにカポッと入れると低音の量を調整できるモデルが存在するが、あれと同じで、俗にいう“ダンプドバスレフ”だ。当然ポートを絞るとバスレフ効果は薄まり、低域の量感は減る。しかし、音としては密閉型に近づき、タイトで音の動きが見えやすい低域になる。 初代Soavo-1 & Soavo-1(BP)と、新モデルNS-F901を比べて、真っ先に気づく外観的な違いは脚部だ。従来モデルは横に細い足が伸びていたが、NS-F901は筐体よりも一回り大きなプレートタイプになっている。 外観で目を引くのは、何と言っても美しいピアノフィニッシュだ。この光沢を出すため、さぞかし何度も重ね塗りをしているのかと安井氏に聞いてみると、意外な答えが返ってきた。 ピアノフィニッシュは、見た目の高級感も素晴らしいが、塗料だけで1kg程度はあるため、スピーカーを重くする効果もあるという。さらにNS-F901ではベースプレートを採用した事で、初代Soavo-1(27kg)と比べると、3kg以上重い30.7kgになっている。この重さは音にも良い影響がありそうだ。 また、プレートの前面をバッフルと揃えるという細かいこだわりも、微細な音の違いがわかりやすいスピーカーならではと言えるだろう。 ヤマハの試聴室において、一般的なリビングを想定した設置で音を聴いてみた。組み合わせは、CDプレーヤー「CD-S1000」(133,350円)、プリメインアンプ「A-S1000」(155,400円)だ。CDやハイレゾのSACDなどを試聴した。 まずCDの試聴として、JAZZボーカル(松尾明Trio & MAYA)や、柴田淳のカバーアルバム「COVER 70's」から「スカイレストラン」などを再生する。見通しの良い音場が広がり、定位は明瞭。音像の輪郭もクリアだ。特にベースの低域の動きが細かく、よく見える。 振動板の剛性アップや、周波数特性のフラット化と聴くと、硬くて冷たい音になったのかと身構えていたが、そこまでガチガチではなく、ヴォーカルの高域のしなやかさ、アコースティックベースのゆったりとした音圧が心地良い。確かに初代のSoavoと比べると音はずいぶん変わった。しかし、クールな音場に広がる柴田淳の声の艶っぽさに、“Soavo”らしさを感じる事もできる。 SACDで、金子三勇士によるリストのピアノソナタを聴く。ピアニッシモとフォルテッシモが交互に展開するが、小さな音は本当に小さくて、耳をそばだてていると、突然ドカンと力強いフォルテッシモが炸裂する。その音量差が極めて大きい、オーディオ機器の再生能力が試される楽曲だ。 だがNS-F901では音の小さな部分でも、ピアノの音像は曖昧にならず、低域も含めて輪郭が明瞭だ。力強いフォルテッシモは、油断していると体がビクッと痙攣するほど急峻でパワフルな音だが、その鋭い音がズバッと出て、サッと消えるスピード感が心地良い。剛性を高め、トランジェントの良さを追求したユニットならではの描写と言えるだろう。 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生。アコースティックベースの低域が豊富な楽曲だが、それゆえ、普通のバスレフスピーカーで再生すると「ヴォー」という唸り声のような迫力の低域が楽しめる反面、その中に情報量が少なく、単に反響して膨らんだだけのボンワリした音に聴こえてしまう。 だが、NS-F901では「ズーン」と硬く、芯のある低域が一気に沈み込み、そこから引き起こされる低音の響きが必要以上に肥大化せず、タイトだ。一聴すると、通常バスレフの「ヴォー」という低音の方が派手で良さそうに感じるのだが、NS-F901のように中高域の解像度が高いと、低域までキッチリ制御されている方が、サウンドステージ全体のフォーカスがバッチリ合うので、聴いていると心地良く、まとまりも良く感じられる。 ハイレゾソースを高解像度なモニターヘッドフォンで聴くと、耳の能力がアップしたかのように、細かな音が克明に聴き取れる、ある種の快感を覚えるが、あの感覚がフロア型スピーカーでも楽しめるのが面白い。 かといって、輪郭を無理やりカリカリシャープに先鋭化させているわけでもない。ソースがしなやかであればしなやかに、エッジが立っていれば、そのようにシャープに描いてみせる。「原音に忠実な再生」と言ってしまえば簡単だが、質感も含めてキッチリとそれが再生できる機器というのは多くはない。 NS-F901を聴いていると特に感じるのは、低域の解像度の重要性だ。考えてみれば、中高域が微細な音まで精密に描写しているのに、低音がボーボー膨らんでいたら、迫力がどうこう以前にアンバランスになる。高解像度なNS-F901のサウンドが、全体を見渡してみてもまとまり良く感じられるのは、高域から低域まで、分解能の高さがキッチリ揃っているからなのだろう。 ハイレゾ対応機器を求める市場ニーズに合わせて進化したNS-F901だが、安井氏によれば、市場のニーズ自体も国によって違いがあるという。 市場のニーズやトレンドを取り入れる事で、Soavoの新モデルは、いわゆる“モニターライクな音”にシフトしたとも言えそうだ。 ハイレゾの情報量を存分に楽しむためには、その細かな情報をキッチリと、ボヤかさず、再生する事が求められる。その結果、生まれるスピーカーは、細かなセッティングやアクセサリの違いが即座に音に反映されるようなセンシティブなスピーカーになるだろう。 だが、ポテンシャルの高いスピーカーを入手し、セッティングやアクセサリを詰めて、自らが理想とする音に追い込んでいくのがピュアオーディオの醍醐味でもある。ハイレゾ時代の到来は、オーディオファンの腕も試される、“趣味としてのオーディオがより面白くなる時代の到来”と言い換えられるかもしれない。 試聴の際は、ハイブリッド仕様のSACDや、CDとハイレゾソースなど持参し、情報量の違いをキッチリ描写できるかにも注目したい。それが、ハイレゾ時代のスピーカー選びの1つの指標になるだろう。 (協力:ヤマハ)▲▲2013年10月9日2008年9月24日2006年8月25日Copyright © ハイレゾ音源は、cdと比べてより細かくデジタル化し保存しているので、音の波形は原音に近い形を描きます。 つまり、レコーディングスタジオやコンサートホールで録音されたクオリティーがほぼ忠実に再現されるというわけです。 CDのサンプリング周波数は44.1kHzでは、約20kHzまでの高域が収録できる。 ハイレゾは96kHzであれば約48kHz、192kHzならば約96kHzまでの収録が可能だ。 PCM方式でデジタル化した音ではナイキストが発見した標本化定理により、サンプリング周波数によって厳密に再現可能な周波数の上限が決定されるようになっています。PCMの音源データでは、サンプリング周波数の半分の周波数までしかデータとして記録することが出来ません。つまり、96kHzのサンプリング周波数のデータならば、記録可能な最高の音の周波数は48kHzになります。それ以上の周波数範囲はキレイにカット …

よく一般的には、ハイレゾ音源の一面に過ぎない可聴帯域の広さだけを取り上げてハイレゾ音源の意味を問う方もいらっしゃるようですが、それはハイレゾ音源の可能性の一部のお話だけです。一般的な可聴範囲内の音をとても丁寧に描ける部分にハイレゾ音源の良さがあるのですが、そちらがあまり注目されないのが残念ですね。ただ、今回この記事ではその部分には目をつぶり、おもにハイレゾ音源が扱うことの出来る音の帯域に注目してまとめていきます。PCM方式でデジタル化した音ではナイキストが発見したPCMの音源データでは、サンプリング周波数の半分の周波数までしかデータとして記録することが出来ません。つまり、96kHzのサンプリング周波数のデータならば、記録可能な最高の音の周波数は48kHzになります。それ以上の周波数範囲はキレイにカットされる形になります。今は概ね、48kHz以上のサンプリング周波数を持つデータがハイレゾ音源と呼ばれています。このような48kHzのサンプリング周波数のデータならば、記録できる音の高さの上限は24KHzということですね。これに対し人間の耳は年齢が若い人たちの健康な耳でも、この周波数範囲を人間の「CDに記録するデジタルデータのスペックはこの人間の可聴範囲を元に作られていて、20kHzをある程度余裕を持って記録可能な、44.1kHzのサンプリング周波数が採用されることになりました。人間の可聴範囲だけを考えると、ハイレゾ音源には人間の耳には聞こえないはずの「超音波」も記録されている、ということになります。ハイレゾの概念が登場する前のヘッドフォンやイヤフォンは、人間の可聴範囲に合わせる形で音作りがなされてきました。このためほとんどのヘッドフォンの再生可能な音の範囲は20Hz~20kHz程度にまとまる形になっていました。これに対して音を出す効率をあまり高める必要のないヘッドフォンやイヤフォンでは、1基のドライバーだけでも非常に広い音の範囲をカバーすることが出来ます。ダイナミック型ドライバー1発でハイレゾ対応を行なうヘッドフォンやイヤフォンも多数存在します。より精密な音の再現を狙って、スピーカーのようにマルチドライバー構成を取るイヤフォンなども存在しています。特にバランスド・アーマチュア型のドライバーは、1基が受け持てる再生周波数範囲が狭めのため、マルチドライバー構成を取ることが多くなります。スピーカーでもハイレゾ対応を名乗る基準は、やはり高音側の再生範囲が40kHzをクリアできることです。このため、全てのスピーカーは高音域を担当するツイーターの音の再生範囲を高音側に大きく広げる工夫をしています。スピーカーではイヤフォンやヘッドフォンとは異なり、電気信号を音に変換する効率がある程度高くないと、広い空間に音を届けるのに十分な音量を出すことが出来ません。このためまた従来のタイプの高音域担当のスピーカーユニット(ツイーター)は、人間の可聴範囲を狙った作りになっていましたので、高音側の再生範囲の上限が20kHz程度に留まります。ハイレゾ対応のスピーカーでは従来のツイーターの音の再生範囲を超えるという意味で、スーパーツイーターを名乗るようなユニットを使うことが多くなりました。前の節でも少し触れましたが、CDは人間の可聴範囲を再現可能なサンプリングレートで仕様が決められました。収録可能な時間(74分または80分)は、カラヤンの演奏するベートーベンの交響曲第9番の演奏時間を元に設定されたとされています。これに対してハイレゾ音源では、PCMの192kHzサンプリングならば、最高96kHzの周波数まで記録できます。人間がどこまで高い音を聞けるか、というよりは「感じられるか」はまだ厳密に突き止められていない部分が残っています。また、演奏を音楽の「資源」と考えると、できるだけ高いクオリティで録音して「保存しておく」という観点では、別の意味でハイレゾ音源の存在価値が出てきます。デジタル音源は一度録音してしまうと、録音時のクオリティで音質が固定されます。あとからどんなに技術が発展しても、録音時以上の音を引き出すことは出来ません。できるだけ高いクオリティで演奏を保存しておく目的からは、できる限り高いサンプリングレートでの録音が必要と言えるかもしれません。DSD音源で使われるPDM方式ではデジタル化の基本原理が全く異なるため、再生周波数の上限に関してはPCM方式とは考え方が違ってきます。moraではPCM形式のハイレゾ音源は、48kHz、96kHz、192kHzのサンプリング周波数のデータが取り扱われています。同じ楽曲に関して複数のフォーマットがあるのではなく、曲ごとにデータ量が違う形です。再生可能な周波数の範囲はそれぞれ、24kHz、48kHz、96kHzになります。量子化ビット数に関してはハイレゾ音源は基本24bitになっていますので、音の滑らかさの表現に関してはどのサンプリング周波数のデータでも、問題のないハイレゾらしい再生が可能です。ハイレゾと周波数の関係をザックリまとめるとこのような形になると思います。恐らくキレイなサインカーブの音の波形で20kHz以上の音を単独で鳴らすと、人間の耳ではその音を聞き取るのは不可能なのだと思います。だた、音楽などのより一般的なたくさんの周波数の音が混じり合った音では、このため音の再生範囲の上限をどこでカットするのかは、まだまだこれからも議論が続くジャンルになるかもしれません。ただ一つ今時点で間違いなく言えることは、演奏という資源を後生にできるだけ正確な形で残すためには、できるだけ高いサンプリングレートでの音源データの作成は必須になりそう、というところでしょうか。タグ: