胃癌 ESD 適応 2018
Gut 2000;47:618-21. cq10:胃癌治療方針の決定に審査腹腔鏡は推奨されるか? 2.内視鏡的切除に関するクリニカル・クエスチョン; cq11:emr/esd適応病変(2 cm以下の潰瘍所見を有さない分化型粘膜内癌)に対して,emrとesd,どちらの内視鏡的切除法が推奨されるか? 最も早期のステージIは、がんが筋層までに留まっていて、リンパ節転移がない場合です。深達度が増すか、リンパ節転移が広がるにしたがって、ステージII、IIIと進んでいきます。そのほか、手術ができないステージIVの胃がんと判断され、化学療法による治療が行われた場合でも、薬の効果でがんが縮小して切除可能なステージとなる場合(ダウンステージ)があります。このとき行われる切除手術は、コンバージョン手術と呼ばれます。つまり最新の進歩した薬物療法によって、割合は少ないものの、ステージIVだった人がステージIIIやII、あるいはIになって切除が可能になる場合があるということです。コンバージョンとは「転換」という意味で、手術可能な胃がんに対して抗がん剤でがんを小さくしてから計画的に手術を行う術前化学療法とは考え方が異なります。コンバージョン手術は、現在はまだ研究の段階であり、その適応や手術に踏み切るタイミングなど議論が続いていますが、ステージIVでもあきらめない、手術できない胃がんに対する新しい手術法として、注目されています。ただし、ステージだけでは治療方針は決まりません。たとえばステージII、ステージIIIであっても、手術が難しい場合もあります。遠隔転移はなくても、転移したリンパ節が、がん細胞で大きく腫れあがっている胃がん(Bulky N)、大動脈の脇のリンパ節に限局したリンパ節転移がある胃がん、直径8㎝以上の大きな浸潤型がん、および、スキルス胃がんでは手術は可能であっても、予後が悪いことが分かっています。そこで、このような胃がんに対しては、術前に化学療法を行ってがんを小さくしたうえで手術によって根治をめざすことも考慮されます(図3)。気をつけておきたいのが、治療を始める前に確定した進行度分類は「臨床分類」といって画像診断などによって推定した診断であり、いわば”予想ステージ”であることです。これに対して、手術後に患者さんの体から摘出した病変の組織を顕微鏡で調べる病理所見による診断が”予想”に対する”答え”である「病理分類」になります。このため、臨床分類ではステージIだった人が、術後の病理分類ではIIになったり、逆もあります。それでも、最初に治療方針を決めるのは臨床分類であり、患者さんにとって大事なのがこの臨床分類とされています。ステージだけでは治療法を判断できない理由としては、患者さんが高齢の場合や胃がん以外の病気の併存によって全身状態が低下している場合、などがあります。つまり病気の因子だけでなく、患者さんの”因子”によっても治療法が決定される場合があるのです。したがって、本来は内視鏡的切除の対象にはならず、胃切除が勧められる場合であっても、高齢などで体力が弱っている患者さんの場合には、リンパ節転移のリスクを十分に理解したうえで、外科的手術ではなく内視鏡的切除を選択するといった場合もあります。このように遠隔転移が生じた場合は、「根治手術ができない」ステージIVの胃がんとなり、選択される治療法は基本的に全身化学療法になります。ただし、なかには手術が可能となってくる場合もあります。手術は、がんが胃の出口側にあれば幽門側胃切除術によって胃の下部を半分~3分の2切除し、入口側にあれば噴門側胃切除術によってやはり胃の上部を3分の1~2分の1切除します。がんの場所や大きさによっては胃全摘が必要となる場合もあります。国立がん研究センター東病院における胃がんに対する術式は、幽門側胃切除術が最も多く約65%、噴門側胃切除術は約15%、胃全摘術は約20%となっています。具体例を挙げると、胃がんが肝臓に転移している場合でいうと、肝臓に多数の転移があり、腹膜播種も認められるような症例では手術ができません。一方、肝臓への転移が1個のみで、ほかの部位への転移もない、というような症例では、手術によって切除することが可能と考えられます。ステージIVの胃がんでも、手術可能という条件を満たすと判断されれば、術前化学療法によってがんを小さくしてから根治手術を行う道が開かれています。幽門側胃切除術が多いのは、日本人の胃がんはピロリ菌に関係するがんが多いことが関係しています。ピロリ菌感染例では、幽門の側から徐々に胃の炎症や萎縮が進み、がん化につながると考えられています。一方、ピロリ菌の感染がほとんどない欧米では胃の上部にできるがんが多く見られます。日本では、近年、ピロリ菌の感染が劇的に減少しているため、今後は胃の上部に発生する欧米型のがんの割合が増えていくとみられています。臨床分類と病理分類は必ずしも一致しないため、手術の前に行う術前化学療法は慎重に対象を選んで行うべきという考え方が日本では一般的で、非常に進行したがんや予後の悪いがんであることが明らかな人だけが対象となります。今回の治療ガイドラインの改訂で大きく変わった点の1つは、EMR(内視鏡的粘膜切除術)やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)による内視鏡的治療の適応が拡大されたことです。内視鏡的治療は口から特殊な器具を入れて病変部を切除する方法で、体への負担は手術よりも小さくなり、胃の機能も保たれます。対象となるのは、ステージIの早期がんの一部です。ステージIでも内視鏡的切除の対象にならず、外科的手術を受ける人も多くいます。※現時点では、長期予後に関するエビデンスが乏しく絶対適応としないがんの深達度と転移の程度を見極めるための検査で重要なのが、胃の中を内視鏡で直接観察する内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)とCT(コンピュータ断層撮影)検査です。内視鏡検査ではがんがある場所とがんの広がりが確認できるほか、粘膜の組織を採取してがんの確定診断ができます。また、がんの形態を内視鏡で詳しく観察することによってがんの深達度を推定できます。CT検査でもがんの深達度を推定でき、さらに、まわりの臓器への広がりやリンパ節への転移や他臓器への転移を見るのにも適しています。遠隔転移があるとステージIVと判定され、通常は手術の対象になりません。転移の有無を調べるのに有効なのはCT検査です。胃がんの場合多いのは腹膜、リンパ節、肝臓への転移であり、まれに肺や骨、脳、卵巣への転移もあります。また、転移が胃の近くのリンパ節のみにある場合(領域リンパ節)は遠隔転移とされないため、ステージII/IIIとして手術が可能ですが、大動脈の脇にあるリンパ節や鎖骨のまわりのリンパ節など、胃から離れたリンパ節への転移は遠隔転移とみなされます。検査ではほかに、腹部超音波検査、胃部X線造影検査(バリウム検査)、超音波内視鏡(EUS)、MRI検査、PET/CT検査などが、付属的に用いられる場合もあります。同じステージIのがんであっても、粘膜下層にまで広がっていたり、あるいは未分化型で大きいものの場合は、リンパ節への転移の可能性があります。その場合の推奨される治療法は外科的手術であり、胃の周囲のリンパ節の切除も同時に行います。この進行胃がんに対する術前化学療法は、まだ十分なエビデンスが得られていないため標準治療には至っていません。現在、大きな浸潤型胃がんやスキルス胃がんに対する術前化学療法の効果を検証する大規模な臨床試験の結果が間もなく発表される予定で、結果によっては標準治療となる可能性があります。なお、スキルス胃がんは、胃の壁の中を染み込むように広がっていくため胃の壁が全体的に固くなっている特徴があり、内視鏡検査やCT、胃透視検査で診断がつきます。術前の画像診断による臨床分類でステージIIとなるのは、がんが筋層内に留まっていても近くのリンパ節に転移している、リンパ節転移がなくてもがんが漿膜下層に至っている、漿膜を越えて胃の表面に出ている場合です。さらに、がんが漿膜下層あるいは漿膜を超えて胃の表面に出ているとともに、近くのリンパ節に転移があればステージIII、遠隔転移があればステージIVとなります。大まかにいって、ステージII程度の進行度なら「容易に手術が可能」と判断し、ステージIII程度の進行度なら「ギリギリ切除可能」と判断され、ステージIVに至ると「根治切除ができない」となります(図2)。これらの検査により、いわゆる病期(ステージ)であるがんの進行度が確定します。ここで用いられるのが、TNM分類と呼ばれる国際的な分類法です。がんの深達度(T因子)、リンパ節転移の有無とその個数(N因子)、遠く離れた臓器への転移(遠隔転移、M因子)の3つの因子の評価を総合的に組み合わせて、進行度が決定します(表1)。これによって、胃がんは、ステージI、IIA、IIB、III、IVA、IVBの臨床分類で分けられます。胃は食べた物を一時的に貯蔵し、消化して少しずつ十二指腸に送り出す臓器です。食道との境目にある胃の入口は噴門、十二指腸に続く出口の部分を幽門と呼んでいます。胃の壁は5つの層からなり、最も内側にある粘膜は、食べた物と接し、胃液や粘液を分泌します。次に粘膜下層があり、その外側で胃を動かす働きをするのが筋層、さらに漿膜(しょうまく)下層と続き、最も外側で胃全体を包む薄い膜が漿膜です(図1)。さらに、現段階ではエビデンスが示されていないため絶対適応ではないものの内視鏡的切除が可能である病変(適応拡大病変)には、2cm以下の粘膜内に留まっていて潰瘍を伴わない悪性度の高い未分化のがんが含まれています(表2)。近年、胃がんは減少傾向にはあると言われているものの、依然として国内で罹患率の最も高い悪性腫瘍です。長年の研究や治療法の進歩によって治療成績は格段に向上し、治療の選択肢も増えています。2018年1月に改訂されたばかりの「胃癌治療ガイドライン(第5版)」から、進行度別の最新治療法をご紹介します。国立がん研究センター東病院では、より精密で合併症の少ない手術をめざして手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いたロボット支援手術を先進医療として実施してきました。その良好な臨床成績が認められ、2018年4月からの保険収載が実現しました。今後はこのロボット支援手術の普及が期待されています。具体的にいうと、EMRとESDの対象になるのは、粘膜内に留まっている2cm以下のがんで、がん細胞の悪性度が低い分化型のものであり、潰瘍を伴わない病変です。このようながんはリンパ節に転移していることがほとんどないとされる「絶対適応病変」と定めらています。さらに、ESDに限った「絶対適応病変」には、2cmを超えていても潰瘍を伴わない分化型の粘膜内に留まったがん、および、潰瘍を伴っていても分化型で3cm以下の粘膜内に留まったがんも含まれます。臨床分類(cTNM、cStage:画像診断、審査腹腔鏡または開腹所見による総合診断)いずれにしろ、I期のがんでは、内視鏡による切除、あるいは外科手術で胃を切除すれば、ほとんどの場合は完治し、その後の化学療法は必要とならない場合がほとんどです。胃がんはまず、粘膜で発生します。粘膜内の細胞が遺伝子に傷ができてがん細胞になり、それが増殖し、次第に胃壁の深くに進んでいきます。胃がんの治療は進行度によって決められています。進行度の判断材料は2つあり、がんが胃の壁のどこまで深く入り込んでいるかという「深達度」と、もう1つはがんが胃の周囲のリンパ節やほかの臓器に飛び火したことを示す「転移」の程度です。手術には、開腹手術と腹腔鏡下手術があります。ステージIで幽門側胃切除術の場合は、腹腔鏡下手術がガイドラインでも推奨されています。腹腔鏡下手術は、腹部に開けた5~6か所の穴から鉗子やメスなどを挿入して行う手術です。高い技術が求められる外科手術ですが、おなかの傷は小さく術後の回復も速やかです。病理分類(pTNM、pStage:胃切除後の病理所見による診断このほか、胃がんの転移の仕方として重要なものには、腹膜播種があります。胃の壁を突き破っておなかの中にがんが種を播いたように広がるためこう呼ばれますが、腹膜播種が疑われるときはおなかの中に内視鏡を入れて調べる審査腹腔鏡検査を行うことがあります。播種がある場合やお腹の中で採取した腹水にがん細胞が見つかる場合(腹腔洗浄細胞診)はステージIVと判定されます。