鼻炎 薬 認知症

毎日新聞のニュースサイトに掲載の記事・写真・図表など無断転載を禁止します。著作権は毎日新聞社またはその情報提供者に属します。  診察室でも女性は「冷蔵庫の裏に無線を飛ばしている人が確かにいるんです」と落ち着きなく不安そうに訴えました。  中止した理由を説明しましょう。  翌々日の昼間に「私の家が2軒あるのでどちらに帰ったらいいのか分からない」と夫の目の前で、遠方に住む子供に電話をしました。夫がびっくりし、何かの冗談かと事情を聴くと「でも2軒あるんだからしょうがないじゃない」と答えました。夫によると、その時の妻の顔は普段とは別人のように無表情で、ぼーっと何もない空間を凝視し「まるで認知症の顔だ」と感じたそうです。 おだ・はるひこ 1977年、兵庫県西宮市出身。兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医師。神戸大学医学部卒。医学博士。神戸大学医学部精神科助教、兵庫県立姫路循環器病センター等を経て2017年4月より現職。日本精神神経学会専門医・指導医。日本老年精神医学会専門医・指導医・評議員。著書に「科学的認知症診療」(シーニュ社、2018)  ・プロメタジン

 認知機能低下やせん妄を起こす可能性のある薬は、今回挙げた第1世代抗ヒスタミン薬以外にもいくつかあります。次回も引き続き、薬の影響による認知機能低下の話をします。

 ・トリプロリジン  総合感冒薬は、いろんな成分が入った薬です。「PL配合顆粒」は、2種類の解熱鎮痛薬と、気分を高揚させる薬の「カフェイン」(気分を高揚させるアッパー系ドラッグ)、そして「プロメタジン」という薬の、計4成分を含んでいます。最後の「プロメタジン」は「第1世代抗ヒスタミン薬」と呼ばれる薬の一種で、問題はこれでした。  ・メクリジン  夫と2人暮らしで、1年くらい前から「お経の内容を忘れやすくなった」と自覚していました。また夜中に寝室で、孫がいないのに「孫がそこにいる」と夫に不安そうに訴えることが時々ありました。ただし炊事などの家事は完璧にこなし、大事な予定を忘れることもなく、夜中に孫が見えた際にも夫が「いないよ」と訂正すると安心して寝入るので、日常生活に支障は全くありませんでした。持病は便秘くらいのもので健康にも問題はありませんでした。

 女性はこんな絵を描いてくれました(実際の絵を筆者が模写した再現図です)。  ・ジメンヒドリナート  先日、ある70代前半の女性が、夫に連れられて私の外来を受診しました。  「PL配合顆粒」はそのほかにもさまざまな危険があるので「高齢者には処方すべきではない」との感染症専門医からの指摘もあります(「絶対に、医者に殺されない47の心得」岩田健太郎著、 講談社)。また「ピーエイ配合錠」というよく似た名前の総合感冒薬があり、「PL配合顆粒」と成分がほぼ一緒なので同様の注意が必要です。  ここまでは医師が処方する風邪薬の話でしたが、薬局で市販されている総合感冒薬の一部にも、第1世代抗ヒスタミン薬が入っているので注意が必要です。65歳以上の人が買う時は、箱に書かれている成分表を詳しく調べて確認した方が無難でしょう。主な第1世代抗ヒスタミン薬の成分名を以下に挙げます。  しいて言えば「正常とレビー小体型認知症の境界状態」である可能性はあるので、念のため定期的に外来通院をしてもらいましたが、深夜に1人で家の外に出ようとはしなくなったそうです。経過から「第1世代抗ヒスタミン薬であるプロメタジンによる認知機能低下、幻覚妄想を伴う意識障害」だったことは明らかでした。  紹介した厚労省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、65歳以上の人が6種類以上の薬を飲むと、薬物有害事象(副作用)の可能性が大きくなると指摘しています。成分数が増えれば増えるほど、成分同士が相互作用して副作用が生じる危険が増えるのです。  入院した女性も、第1世代抗ヒスタミン薬のせいで、認知機能が低下していると疑われました。ですから風邪症状があろうとも、「PL配合顆粒」の中止が切実に必要だったのです。 鼻炎薬の服用により眠気が気になる場合は、眠気が出にくいといわれている第2世代の抗ヒスタミン剤配合の鼻炎薬や、鼻炎に効果があるといわれている漢方薬の服用がおススメです。 アレグラfx(久光製薬) アレジオン20(エスエス製薬) 小青竜湯・・・など.

 ・ドキシラミン  ・ジフェンヒドラミン のどの痛みもある方.

 中止の効果はすぐに表れました。風邪の症状は数日続いたのですが、「自宅が2軒ある」「冷蔵庫の裏に無線を飛ばしている人がいる」といった幻覚や妄想は、入院翌日からすっかり消えたのです。  女性はその日の深夜に「冷蔵庫の裏に無線を飛ばしている人がいるので困っているんです」と110番通報。さらに、夫の制止を振り切って1人で家の外に出ようとしました。訪れた警察官に精神科受診を勧められ、朝になって私の外来に来たのでした。  最初に「12」を定位置に書きましたが、丸全体を見渡す注意力がなく、「12」のすぐ隣に「1」を書いてしまいました。さらに「2」「3」「4」と続けて無計画に書いてしまい、かなりバランスの悪い時計になりました。「12」まで書き終えた後も「13」「14」と書き続け、「25」まで書いた後に何かおかしいと感じたのか、隣に「0」「1」と続けて書きました。そこで数字を書くのをやめ、短針と長針を描きました。長針を描いた後に「間違えた」と上から×を書き加えました。

 ある冬の日、喉の痛みが強く鼻水が止まらず微熱も出たので近所の診療所を受診しました。「風邪」と診断されて総合感冒薬の「PL配合顆粒(かりゅう)」を処方され、1回1袋を1日4回飲むよう言われました。後から考えると、この薬が問題でした。  入院後、最初の土日に自宅に試験外泊してもらうと、精神症状は一切なく、普通に家事もでき「すっかり元に戻った」と夫は大喜びしました。結局、2週間ほどで無事に退院し自宅に戻れました。  入院中の精密検査では、脳の「後頭葉」という部分の血流が低下していました。これは「レビー小体型認知症」でよくある血流低下パターンです。認知機能を調べる「ミニメンタルステート検査」(30点満点)では、「100から7を連続して引いていく」という課題が一切できず、25点でした。
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20190709/med/00m/100/006000c  ただ前回述べた通り、認知症の定義は「知的能力の衰えが進行することによって」「忘れっぽい、言葉が出にくい、段取りしにくい等のさまざまな症状が表れ」「その影響で生活に支障が出る」状態です。生活に支障が出ていない以上、この人は認知症には該当しません。  そして、医療用医薬品の「PL配合顆粒」や「ピーエイ配合錠」はそれぞれ4成分ですが、市販の総合感冒薬はもっと多くの成分を含みます。商品によって違いますが、8成分くらいのことが多いようです。これでは、4成分の「PL配合顆粒」や「ピーエイ配合錠」より、むしろ危険である可能性すらあります。  ・クレマスチン

 女性をそのまま家に帰すのは危険なので、入院してもらいました。この際に「PL配合顆粒」を飲むのは中止してもらいました。「風邪」という診断は妥当だと思われたのですが、それでも中止し、喉の痛みには別の消炎鎮痛薬を処方したのです。  ・デキスクロルフェニラミン  「12」「6」「3」「9」を最初に定位置に書き、残りの数字も計画的にバランス良く書けました。針を間違って3本描きましたが、間違いに気づき、3本目の針の上に×を自分でつけました。  ・シプロヘプタジン  退院前に再び描いてもらった「時計」はこんな絵でした(著者が模写した再現図です)。  とはいえ「風邪でしんどい時に、小さい字でびっしり書かれている薬の成分表を読む気にはなれない」のが実際のところでしょう。ゆえに「そもそも総合感冒薬に手を出さない」という姿勢が安全でしょう。風邪で肝要なのは休養です。  ・クロルフェニラミン <「治る認知症」鑑別は出発点><叫び続けた認知症男性は「薬の整理」で救われた><「市販薬依存」が引き起こす肝障害やぼけ症状><「知らぬ間に依存も」子どもに禁止のせき止め薬 ><鼻風邪の薬「効く証拠」があるのはごくわずか>

 ところが、ヒスタミンは脳の中においても、覚醒や学習、記憶に関係する働きをしています。「アルツハイマー型認知症」の患者は重症なほど、脳内でヒスタミンが働きにくくなっています。このことは認知症の症状と関係があると考えられています。
 ・カルビノキサミン  「ヒスタミン」はもともと体内にある化学物質で、鼻の粘膜に作用すると、鼻水やくしゃみを起こします。「第1世代抗ヒスタミン薬」は、ヒスタミンの働きを妨げて鼻水やくしゃみを抑えます。  第1世代抗ヒスタミン薬は、鼻水を止めるほかに、この「脳内のヒスタミン」の働きを妨げてしまいます。このため特に65歳以上の人が飲んだ場合、幻覚を見たり、認知機能が低下したりする危険が大きいのです。  ・デキスブロムフェニラミン