エンハーツ カドサイラ 違い
2020年5月15日のブログ記事一覧です。再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる【ロッキングチェアに揺られて】 2020年1月8日 、第一三共の起死回生の一打のエンハーツ(ds-8201)が、遂にアメリカで発売されました。アストラゼネカの買収未遂はエンハーツが目的だったと言われるほど期待された新薬であり、第一三共の株価は当時の3倍と息を吹き返してい 分子標的薬は、ある分子を標的として開発された薬剤のことです。2000年前後に開発され始め、今となっては毎年のように開発・承認がなされています。今回、薬に携わる方々の参考になればと思い、現役の薬剤師が日本で承認された分子標的薬を調べて一覧にまとめました。 こんにちは。加藤隆佑です。がん治療専門医として、小樽協会病院という総合病院で勤務しています。さて、今日は、乳がんについてのお話です。乳がんで、ステージ4の状況ですと、長くは生きられないと、途方にくれているかもしれません。しかし、必ずしも、そうではありません。たとえ、抗がん剤治療ができないような、末期の状態であっても、よりよい状態にもっていくことは、できます。余命宣告をされていたとしても、余命をさらに伸ばすことは、できるのです。希望を持ちつつ、治療を受けていきましょう。そして、ステージ4の乳がんを克服する確率を、跳ね上げていきましょう。目次ステージ4の乳がんでは、肝臓、肺、胸膜、複数のリンパ節に、がん細胞がある状態のことです。がん細胞が、体に広く散らばっていると予想されます。手術では、がんをすべて取り除けません。一方で、抗がん剤であれば、体の血流にのって、体中にひろがったがん細胞に、がんを倒す薬の成分を、行き渡らせることができます。うまく抗がん剤が効いてくれると、がんの成長を抑えてくれます。抗がん剤は、必要な治療の1つであることは、明白でしょう。たとえば、ホルモン療法も、非常に重要な治療の選択肢になることでしょう。ホルモン療法に関しては、次の項目で、詳しく説明しています。乳がんの細胞には、いくつかの顔つきがあります。顔つきを決める1つの要素が、がん細胞の中に、ホルモン受容体があるか、どうかです。ホルモン受容体があると、女性ホルモンが、がんの増殖を促すことになります。がんの顔つきを決めるもう1つの要素が、HER2というタンパクがあるか、どうかです。以上のことを踏まえると、乳がんは、以下のような4つのグループにまとめられます。ちなみに、下記にある表の中に書いてある「陽性」の意味は、「検査してみると、存在が認められる」という意味です。 ホルモン受容体が陽性ならば、「ホルモン療法」と「抗がん剤治療」が中心となります。HER2陽性ならば、「HER2たんぱくを標的とする分子標的薬」と「抗がん剤治療」が中心となります。ホルモン受容体とHER2が陽性ならば、「HER2受容体を標的とする分子標的薬」、「抗がん剤治療」、「ホルモン療法」が中心となります。具体的には、以下のような薬物が、用いられます。 抗がん剤の頭文字をとって、TC療法とも呼ばれます。注射による治療です。FEC療とも呼ばれます。FEC療法の代わりに、AC療法が用いられることがありますが、効果は同じです。注射による治療です。アブラキサンのかわりに、ドセタキセルやパクリタキセルという薬が用いられることがあります。どれであったとしても、効果は、ほぼ同じです。アブラキサンによる治療の際に、アバスチンという分子標的薬を併用することがあります。注射による治療です。飲み薬です。副作用は少ないです。ちなみに、BRCAの変異が陽性の割合は以下の通りです。エリブリンメシル酸塩(製品名はハラヴェン)、ジェムザール(ゲムシタビン)、ビノレルビン(ナベルビンなど)、イリノテカンさて、抗がん剤によって、強い副作用が、でることが、あります。副作用に耐えられる体力がない方は、抗がん剤を受けるべきではありません。寿命を短くすることに、なりかねないからです。パクリタキセルという抗がん剤と併用されることが多いです。ゼローダという抗がん剤と一緒に用いられることが多いです。ステージ4の乳がんの治療法のところに、「効き目の強い抗がん剤」と、「効き目がそれほど強くない抗がん剤」という分類になっていることに、気づかれたでしょうか?効き目の強い抗がん剤は、かなりの治療効果を期待できます。そして、効き目の強い抗がん剤を、優先的に使っていくことになります。具体的には、以下のようなお薬の選択肢しかない場合です。ハラヴェン、ジェムザール、ナベルビン、イリノテカン無理な治療が、寿命を短くするのです。また、効き目が強い抗がん剤の選択肢がない段階においては、以下のような治療法を受ける価値がないかを、検討してもよいでしょう。上記の治療法のどれかが、とても有効な場合が、あるからです。しかし、主治医がこれらの治療を提案してくれるケースは、非常に少ないです。なぜならば、主治医が、これらの治療に関して、詳しくないからです。有望な治療法を探す時には、セカンドオピニオンを利用すると良いです。2ヶ月間ほど、治療を行った上で、抗がん剤の治療効果を確認します。CTや、腫瘍マーカーの数値で、がんの増殖が抑えられていれば、抗がん剤の効果はあると判定されます。がんの勢いが強く、切羽詰まった状態の時もあります。その場合は、2ヶ月よりもっと短い期間で、抗がん剤の効果判定をします。「もっと早い段階で抗がん剤の効果判定を行い、別の抗がん剤を変更しておけば、もっと長く元気に過ごすことができたかもしれない。」ということも、あるということです。さて、乳がんの抗がん剤は、よい薬がでています。非常に長い期間、元気に過ごされる方も多いです。ずっとがんの成長は、抑えられています。そして、乳がんの寛解の状態(画像上、がんを指摘できない状態)が、ずっと続くこともあります。だからこそ、治らないと決めつけないで、治療を受けるというスタンスは必要です。抗がん剤治療を受けている最中の定期検査の結果で、腫瘍マーカーが少し上昇することがあります。腫瘍マーカが少し上がった程度では、不安に思う必要はありません。たとえ、腫瘍マーカーが、正常域内であったとしても、右肩上がりに数値が上昇するときは、がんが増殖している兆候であることが多いです。5年生存率は、このデータに基づいて、説明されることが多いです。以前に比べれば、乳がんの治療効果は、高っているのです。ステージ4であっても、数年にわたって、元気にされている人はいます。中には、完治に持ってこれるケースもあります。一方で、全身に転移して食事もほとんど食べられない状態のステージ4ですと、数週間しか生きられない人もいます。結果として、乳がんステージ4の生存期間の中央値は、約29ヶ月となります。さて、なかには、ステージ4でも、画像上、がんが、指摘できない状態に持っていく事ができるケースもあります。1つ事例をあげます。肝臓に転移があり、ステージ4の診断。しかし、すい臓のがんの部分は、大血管を巻き込んでいて、手術では、とれない状態。しかし、これ以上の抗がん剤治療の継続は困難であり、手術を試みることになる。手術で、お腹の中を見てみると、血管を巻き込んでいる部分は、がんではなく、治療により繊維化した部分であることが、判明。さて、このような、良い治療結果にしていくためには、病院の治療だけを受けていれば良いわけではありません。無料メール講座でも解説していますので、登録しておいてくださいね。がん治療専門医が教える、がんを克服するための無料メール講座 カドサイラの効果を証明した臨床試験は、「カドサイラ単独群」と「タイケルブ+*ゼローダ群」を比較したemilia試験(2012年)である。対象となったのは、her2陽性の進行再発乳がんで、ハーセプチンとタキサン系薬剤による治療歴がある患者さん。 VEGFRについてはラムシルマブ(サイラムザ)を参照承認日:2020/3/25※BTKについてはイブルチニブ(イムブルビカ)を参照承認日:2020/3/25※HER2についてはトラスツズマブ(ハーセプチン)を参照承認日:2020/3/25※METについてはカボザンチニブ(カボメティクス)を参照分子標的薬の一覧はいかがだったでしょうか。もちろん、米国、欧州の国では多くの医薬品が先だって承認されていますので、それについても今後まとめたいと思います。最初にもお話しましたが、分子標的薬にはこれまでの医薬品以上に効果が期待されているものが多くあります。新しい薬が承認されましたらその都度更新していきます。このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。次の記事 薬剤師・薬学生のための情報サイト © 2020 Gorokichi.com All rights reserved. オファツムマブ(アーゼラ) 承認年:2013 標的分子:cd20 主な適応疾患:慢性リンパ性白血病. 根拠となった臨床試験は、カドサイラの治療を受けたHER2陽性の再発・転移性乳がん患者さんを対象にエンハーツ単剤を投与した国際共同第Ⅱ相試験のDESTINY-Breast01試験です。 3) 以前の治療数中央値は6治療でしたが、有効性は以下の結果が得られています。 過去記事:実はこれに対する一つの解答は既に臨床応用されております。それが今回のテーマの抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate)です。頭文字をとってADCと略されます。簡単に紹介すると狙った場所に高濃度で薬物を届ける技術です。薬を届けたくない部分には届けず、副作用を抑えることができますし、届けたい部分には高濃度で薬物を届けることができます。人類が望んでいたドラックデリバリーシステムの一つです。抗体薬物複合体の構造、原理、そしてこの領域では明らかにブレイクスルーとなるであろう薬剤のエンハーツについて確認したいと思います。ちなみに2020年5月現在、ADCはマイロターグ、ゼヴァリン、アドセトリス、カドサイラ、ベスポンサ、LUMOXITI、Polivy、エンハーツ、PADCEVの9製品が製品化されています。抗体薬物複合体は名前の通り抗体と薬物の複合体です。教科書的には3つのパーツで構成されています。の3パーツです。抗体ってなに?いう方は先に過去記事:モノクローナル?という方は過去記事:リンカーにはさまざまな物質が採用されていますが、基本の役割はモノクローナル抗体と薬物を繫ぐことです。link-erと名前のまんまの意味ですね。つなぎ役です。実はリンカーの性質の差で抗体に搭載できる薬物の数が変わることも分かっています。後ほど紹介するエンハーツはこの部分が凄いです。なんとなく脇役っぽく見えるリンカーですがADCにおいて間違いなく主役級です。リンカーに求められるメインの仕事は下記2点です。血管内で切断されて危険な薬物が解き放たれては大きな副作用につながりますし目的の場所で薬物をなかなか開放できなければ、効果が弱くなってしまいます。ただのつなぎ役ではなく、性能を決める上で重要な調整を担っています。血管内で切断されて危険な薬物が解き放たれては大きな副作用につながりますし目的の場所で薬物をなかなか開放できなければ、効果が弱くなってしまいます。構造に関してはPADCEVのホームページの画像が解りやかったです。こんな感じで抗体に4つ薬がついています。抗体と薬物を結合させることで薬物に対してモノクローナル抗体の抗原特異性(特定の相手を狙って結合する性質)を与えることに成功したわけです。結果として血中に存在する活性化した薬物量を少なくできるので、副作用を減らしたり、より高濃度の薬剤を投与することが出来るようになったりします。また、効果が強く直接注射すると毒性が強くて使えない物質であっても適切な抗体とリンカーを用いることで有用な薬物とすることが期待できます。DARも薬効を判断する上で非常に重要な概念ですので、紹介させて頂きます。DARはDrug to Antibody Ratio、日本語訳すると薬物抗体比といいます。一言でいうと、DAR2は1抗体に2つ 、DAR4は4つ、DAR8は8つ搭載していることを表しています。最大値は8です。数が多くなれば多くなるほど薬効が強くなりますが、発売されているほとんどのADCのDARは2~4です。先ほどのPADCEVもDARは4でした。8が最大数ならば全部8にすればいいじゃない?と思いますが、実はそこが課題だったりします。どんな課題かというと、DAR8にすると薬効が落ちることが分かっています。これは増えたリンカーの性質が干渉して薬が凝集してしまう為と考えられています。平たく言うと抗体たちがくっついて絡んで塊になってしまいます。こうなると上手く仕事が出来ません。DAR8のより強力なADCを作るために干渉ぜず凝集しないリンカーの開発が大きな課題でした。DARが4⇒8となれば届けられる薬物の数が2倍に増えますからね。その分、効果も期待できるようになります。DAR8の抗体薬物複合体は大きな目標でした。(過去形)抗体薬物複合体の基本原理は以下になります。をそれぞれ表しています。薬効を示すまでのステップは基本的なADCの原理だいたいどれも同じ感じです。抗体の働きによって選択的に狙った細胞に取り込まれ、リンカーが切断されることで薬効を示します。リソソームは細胞内に入ってきた物質を分解知る働きを持ちます。リンカーはリソソームや標的に特異的な物質で分解される様にデザインされています。そうすることで、標的分子が多くある場所に多く薬が移行し、かつ細胞内で薬物が解放される様になります。最後に日本でも3月末に承認された第一三共のエンハーツを紹介します。これは間違いなくADCの新時代をつくる薬剤エンハーツの一般名はトラスツズマブ デルクステカン。製品名はエンハーツ点滴静注用100mgです。前半のトラスツズマブはモノクローナル抗体の名前、後半のデルクステカンはリンカーと薬物であるカンプトテシン誘導体の名前を表しています。トラスツズマブはハーセプチンという名前で製品化もされていますし、同じADCのカドサイラも同じトラスツズマブを使っています。HER2を標的とするモノクローナル抗体として確かな実績があります。ちなみにこれは名前の由来にもなっていてEnhance(強化する)とHER2を組み合わせて名付けられてます。名前からして強そうですね。HER2は細胞の増殖に関与するとされるタンパク質です。主に乳がん、胃がん、大腸がん、肺がん、膀胱がんなどのがんの表面に多く発現することが分かっています。正常細胞よりも圧倒的に上記がん細胞に多く発現していますので、これをターゲットにADCをつくると、正常細胞と比べてがん細胞に圧倒的多くの抗がん剤をとどけられます。しかし、この点はカドサイラも同じです。エンハーツの特徴をもっとも表しているのは前述のとおりDAR8はADCにおける技術的目標の一つでした。そうです『でした』過去形なのです。【約】8であるのはどーしても作成途中ではずれちゃう薬剤が出てくるためです。100%はあり得ないですから。それでもエンハーツのその精度は高くほぼ8です。これは本当にすごいです。DAR4と比べて2倍の薬物を運べるようになった訳です。その分、効果も期待できます。エンハーツは8つの薬物を搭載しても凝集しないリンカーが使われているうえ、そのリンカーは血中で安定し簡単には薬物を放出しません。さらにがん細胞で多く発現しているカテプシンによって切断されるため、非がん細胞に吸収されても薬物リリースを起こしにくい特徴を有しています。さらに薬物のカンプトテシン誘導体ですが、カンプトテシン自体は1966年には構造が明らかになっているほど古い物質です。明らかな抗がん作用を有しています。単体では毒性が強いため、性能を引き出すために誘導体が開発されています。エンハーツに使われているカンプトテシン誘導体は抗がん作用を有するとともに、万が一血中に解き放たれた場合の為に血中半減期も短く設計されています。そもそもがん細胞以外ではリリースされにくいのに、仮にリリースされても早急に消失する訳ですね。抗体薬物複合体。いかがだったでしょうか。今回は紹介を避けましたが、実はまだまだ課題のある技術ではある様です、しかしながら、その課題はエンハーツの様に確実に解決されています。将来的には薬物輸送に課題が残る核酸医薬もADC化することで課題解決が図られる時代が来るのかもしれません。追記エンハーツ3つめブレイクスルーセラピー指定をFDAから受けましたね。HER2遺伝子変異を有する再発・転移性乳がん、胃がんの次は転移性非小細胞肺がんですか…ホントに凄い薬ですね。— シャ・チクチク (@mrnetinfo) 2020/05/25本邦発売されました。承認時薬価は100mg1瓶16万5074円。ピーク時に129億円の売り上げを見込む模様です。直感的には129億というのは少ない気がします。追適でどこまで拡大するのか見ものですね。シャ・チクチクと申します。製薬業界で生きてます。趣味は温泉と水族館です。薬の作用機序も恐らく趣味です。業界関連の広く浅い情報発信をしています。したがって情報の深度は浅瀬です。深淵を覗きたい方にはオススメいたしません。作用機序等の話と業界ニュース中心です。わかりやすく伝えることを心がけ、「参考になったな」と思って貰えることを目指しています。製薬業界が気になるって方はフォローしてみて下さい。全国都道府県踏破済みオフラインのためランキングが表示できませんオフラインのためランキングが表示できません